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一条真也
「『おもてなし』とは何か」

 

 こんにちは、一条真也です。

 今年最初の著書となる『決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)を上梓(じょうし)しました。

 『決定版 冠婚葬祭入門』『決定版 終活入門』に続く入門シリーズの最新作です。

 おかげさまで発売以来、好評をいただいているようですが、同書のサブタイトルは「ジャパニーズ・ホスピタリティの真髄(しんずい)」です。

 表紙カバーには日本文化を象徴するアイコンである桜の花びらがデザインされています。また「観光立国のカギは、日本的なおもてなしの心にあり」「接客業・サービス業に求められる"日本的かつ世界標準"な礼の形をわかりやすく解説」と書かれた帯を外すと、これまた日本のシンボルである富士山のアイコンが姿を見せます。


■印象に残る滝川さんのプレゼン


 2020年のオリンピック開催地が東京に決定した時、日本中が大きな喜びに包まれました。さまざまな人が行った東京招致のプレゼンテーションの映像も繰り返しテレビなどで流され、ネットでも再生されました。その中で、一番印象に残ったのが、滝川クリステルさんのプレゼンでした。アルゼンチン・ブエノスアイレスのIOC(国際オリンピック委員会)総会で東京がプレゼンテーションを行った際、滝川さんがIOC委員に東京招致を訴えました。流暢(りゅうちょう)なフランス語と、ナチュラルな笑顔...。これ以上ない適役でした。

 「皆様を私どもでしかできないお迎え方をいたします。それは日本語ではたった一言で表現できます。『お・も・て・な・し』。それは訪れる人を心から慈しみ、お迎えするという深い意味があります。先祖代々受け継がれてまいりました。以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです。その『おもてなし』の心があるからこそ、日本人がこれほどまでに互いを思いやり、客人に心配りをするのです」

 この滝川さんのスピーチを聞きながら、「おもてなし」という言葉を再認識した方が多かったのではないでしょうか。いわゆる「サービス」とも「ホスピタリティ」とも違った、日本独特の世界が「おもてなし」です。彼女が「お・も・て・な・し」と一字ずつ印を切るように発声してから、最後に合掌しながら「おもてなし」と言い直した場面には感動しました。  

 東京の治安が良いこととか、公共交通機関が充実しているとか、街が清潔であるとか、そういった現実的な問題ももちろん大事です。でも、「おもてなし」という言葉、そして合掌する姿が日本をこれ以上ないほど輝かせてくれました。

 さて、わたしは創業70周年を数える九州・小倉の松柏園ホテルの三代目として生まれ、幼少の頃はホテル内に住んでいました。ですから、「おもてなし」という言葉は物心ついたときから耳にしていました。いま、わたしは株式会社サンレーという冠婚葬祭の会社を経営しています。冠婚葬祭の根本をなすのは「礼」の精神です。


■もてなしの精神支える3つの宗教


 「礼」とは何でしょうか。それは、2500年前に中国で孔子が説いた大いなる教えです。平たくいえば、「人間尊重」ということです。わが社では、「人間尊重」をミッションにしています。本業がホスピタリティ・サービスの提供ですので、わが社では、お客さまを大切にする"こころ"はもちろん、それを"かたち"にすることを何よりも重んじています。こうした接客サービス業としては当たり前のことが、一般の方々の「おもてなし」においても、きっと何かのヒントになるのではないかと思います。

 日本人の"こころ"は、神道・仏教・儒教の3つの宗教によって支えられています。日本の冠婚葬祭の中では、それらが完全に共生しています。また、日本流「おもてなし」にもそれらの教えが入り込んでいます。

 例えば、神道の「神祭」では、物言わぬ神に対して、お神酒や米や野菜などの神饌(しんせん)を捧(ささ)げます。この「察する」という心こそ、「おもてなし」の源流といえるのではないでしょうか。また、仏教には無私の心で相手に施す「無財の七施(しちせ)」があります。さらに前述した「礼」は儒教の神髄そのものです。これらすべてが、日本の「おもてなし」文化を支えています。


■「こころのジパング」を目指そう


 「おもてなし」という言葉には次の2つの意味があるとされています。

 1.モノを持って成し遂げる → お客さまを待遇すること

 2.表裏なし → 表裏のないココロでお客さまをお迎えすること 

 この場合のモノとは、季節感のある生花、お客さまに合わせた掛け軸、絵、茶器などです。ココロとは、言葉や表情やしぐさに表れます。

 結局、「おもてなし」とは、相手を思いやり、相手を喜ばそうという気持ちの表現であり、「ハートフル」にも通じるのです。また、主に茶席や懐石料理の場合ですが、「おもてなし」には三位一体としての「もてなし」「しつらい」「ふるまい」があります。

 「もてなし」とは、わざわざ足を運んでいただいたお客さまに、できるだけ満足して帰っていただくための迎える側の心構えです。「しつらい」とは、季節や趣向に合わせて、部屋を調度や花などの飾り付けで整えることで、「室礼」とも書きます。「ふるまい」とは、TPOや趣向にふさわしい身のこなしをすることです。 

 かつての日本は、黄金の国として「ジパング」と称されました。これからは、おもてなしの心で「こころのジパング」を目指したいものですね。

 ジャパニーズ・ホスピタリティとしての「おもてなし」こそは、人類が21世紀において平和で幸福な社会をつくるための最大のキーワードです。そして、その中心的役割を担うのは日本人であるあなたかもしれません。

 わたしは、『決定版 おもてなし入門』において、「おもてなし」の源流、意味、そして具体的な実践方法を余すところなく書きました。ご一読くだされば幸いです。