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一条真也
「北陸新幹線で金沢へ」

 

■グランクラスの乗り心地


 こんにちは、一条真也です。

 3月14日、話題沸騰の北陸新幹線が開業しました。開業からしばらくして、わたしは北陸新幹線「かがやき」に乗りました。行き先は、わたしが日本で最も好きな街である金沢です。北陸新幹線には「かがやき」「はくたか」「つるぎ」「あさま」の4種類があります。わたしは、最も新しく一番人気の「かがやき」に乗車しました。東京から金沢まで、2時間28分という速さです。

 座席は最高グレードの「グランクラス」が1席だけ残っていたので、迷わず購入しました。贅沢(ぜいたく)だと思われるかもしれませんが、最上の「おもてなし」に触れることも、わたしの大切な仕事です。グランクラスの車内はやはり高級感のあるデザインで、座席は皮張りで飛行機のファーストクラスを思わせます。

 わたしは東京駅のホームで求めた「北陸新幹線開業記念弁当」を食べたのですが、その直後、エアラインのような軽食&ドリンクのサービスが提供されました。わたしは「しまった! 軽食が出るのなら弁当を買わなければよかった」と思いながら、洋軽食と赤ワインを注文しました。

 飲み放題とのことで、中には日本酒を1人で5、6本空けている強者もいました。そういう人たちは泥酔して騒がしかったのですが、みんな富山駅で降りていきました。軽食とアルコールのサービスの後は、コーヒーとパウンドケーキが出されました。至れり尽くせり、です。

 2時間28分後、わたしの乗った「かがやき529号」は金沢駅に到着しました。金沢駅のホームにはカメラを持った大勢の人々が待っており、競い合うように「かがやき」を撮影していました。そういえば、東京駅のホームにも多くのカメラを持った人がいました。開業以来、日本列島は北陸新幹線フィーバーの観があります。なんでも、金沢駅の入場券は2時間以内という制限付きだそうです。時間制限のある駅の入場券というのも凄(すご)いですね!


■「割り切れない日」に結婚式


 さて、3月14日は北陸新幹線の開業という記念すべき日であり、ホワイトデーでもありましたが、もう1つの意味もありました。それは「3.14」は円周率と同じで、つまり「割り切れない日」です。この3つの意味を重ねて、今年の3月14日は、石川県で過去最大婚姻の届け出があったそうです。その数、じつに50組以上だったとか。わが社の結婚式場であるマリエールオークパイン金沢の井口幸治支配人は総合朝礼で「みんな結婚したくないわけではなありません。何かきっかけさえあれば結婚したいのです」と述べ、「わたしたち冠婚事業部は、きっかけ作りを目指したいと思います」と決意を明らかにしていました。

 わたしの乗った「かがやき」は、わたしが日本で最も好きな金沢の街に到着しました。わたしの住んでいる北九州市は「文化の砂漠」などといわれる製造業の街ですが、加賀百万石の伝統が生きる金沢ほど文化的な街はないといつも思います。


■金沢が輩出した文豪や思想家


 もともと、わたしは、金沢を代表する作家である泉鏡花の文学を愛読していました。鏡花ほど幻想的で美しい物語を書いた作家はいません。鏡花の他にも、マリエールオークパイン金沢の前庭に文学碑が立っている室生犀星は「抒情小曲集」の世界から「愛の詩集」の世界に向かっていった大詩人ですし、哲学の世界ではかの西田幾多郎や鈴木大拙が金沢の地で思索し、世に出ました。

 西田はプラトンやカントにも比べられる日本最大の哲学者といわれ、大拙は日本人でもっとも世界によく知られた禅哲学者、宗教学者、宗教者です。彼によって欧米における禅(ZEN)ブームが起こり、今日の欧米人の日本理解や東洋への関心も大拙の功績だといわれています。

 西田幾多郎と鈴木大拙の2人は、日本が世界に誇りうる大思想家です。しかし、じつは同年齢の2人は金沢の地で親交を深め、生涯の大親友となり、西田の臨終は大拙が看取りました。ちなみに鏡花の臨終は友人の柳田國男が看取っています。元来ロマン主義的傾向のあるわたしは、泉鏡花、室生犀星、西田幾多郎、鈴木大拙らの著書を金沢出張の際に少しずつ読むのを何よりの楽しみにしています。

 わたしが社長を務めるサンレーは各地で冠婚葬祭事業を展開していますが、特に縁が深い土地はなんといっても、小倉・金沢・沖縄です。本社のある小倉が「小笠原流礼法」、沖縄が「守礼之邦」なら、金沢ひいては石川県のキーワードは「もてなし文化」と言えるでしょう。キリスト教の隣人愛に基づく「ホスピタリティー」は儒教の「礼」に通じ、いずれも人をもてなす心の基本です。つまり、小倉・金沢・沖縄は「ホスピタリティー・トライアングル」なのです。いずれの地でもわが社がトップシェアを占めているのは誇りです。


■日本代表する「もてなし文化」


 数年前に京都駅で「もてなし文化の金沢に行こう」という大看板を見て、ちょっと驚きました。京都こそが日本を代表する観光文化都市だと思っていましたが、こと「もてなし文化」にかけては金沢のほうが上のようです。

 金沢の「もてなし文化」の背景には、能とともに広く市民の間に浸透している茶道の存在があるように思います。数多い喫茶店や茶屋は言うに及ばず、定食屋や美術館などでもお茶のもてなしを受けます。煎茶(せんちゃ)ならともかく、これほど市民が抹茶を飲み慣れている街は全国でも珍しいでしょう。わたしは以前、父と兼六園大茶会に参加しましたが、その参加者の多さに金沢の茶道文化の底力を感じました。

 茶道といえば、一期一会。人生ただ一度の出会いを想定した真剣勝負の接待。まさにジャパニーズ・ホスピタリティーそのものです。わたしは、「ジャパニーズ・ホスピタリティーの真髄(しんずい)」というサブタイトルを持つ『決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)を上梓(じょうし)しましたが、北陸新幹線の開業によって、日本一の「おもてなし」都市である金沢がさらに輝くことを期待しています!