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一条真也
「サン・ジョルディの日に本を贈る」

 

 4月23日は「サン・ジョルディの日」である。もともとは、スペインのカタルーニャ地方におけるキリスト教の聖人・聖ゲオルギオス(サン・ジョルディ)の聖名祝日だ。
 この日は「本の日」とも呼ばれ、親しい人に本を贈る記念日とされている。20世紀後半、この風習は「サン・ジョルディの日」の名とともに日本へも紹介された。スペインからの提案に基づいて、ユネスコは、4月23日を「世界図書・著作権デー」(世界本の日)に制定している。
 本を贈るのも、贈られるのも素敵なことだ。本1冊が仕上がるまでには、いろいろな人の手を経て、たいへんな手間がかかっている。
 どの本にも、著者の想いがあり、編集者の想いがあり、デザイナーも営業スタッフも、本にかかわったみんなの想いが込められている。
 どんな本にも書かれた意味があり、出版されないほうがよかった本など1冊もないと思う。それぞれ著者や出版社の想いがあって書店に並んでいる。それを感じることができるかどうかが大切である。
 「であい」という言葉は、人間の場合は「出会い」、人間以外のものの場合は「出合い」と書く。私は、人との「出会い」も、本との「出合い」も、すべては縁なのだと思う。無数ともいえる本の中から、1冊が選ばれるなんて、すごいことだ。
 たとえ、下らないと思える本でも知らないことや驚くことが1つはあるもの。すべてのページが自分に有益でなければいけないなんて欲張ってはいけない。いくら初心者向けの入門書だって、自分が知らないことが1つは書いてある。それを見つけるだけでも価値があるのではないか。
 重要なのは読み手と本との相性であり、本との出合い方によって、すべての本が大切なのだ。本を必要とか不必要と分けることはできない。
 今年のサン・ジョルディの日、わたしは、わが最新刊『人生の修め方』(日本経済新聞出版社)を親しい方々に贈ろうと思っている。