第7回
一条真也
「グランドカルチャーの世界」

 

 いわゆる文化には、高齢者にふさわしい文化というものがあります。長年の経験を積んでものごとに熟達していることを「老熟」といい、大成することを「老成」といいますが、この老熟や老成が何よりも物を言う文化を、私は「グランドカルチャー」と呼んでいます。  グランドカルチャーは、生け花よりも盆栽、将棋よりも囲碁、短歌よりも俳句、歌舞伎よりも能...と挙げていけば、そのニュアンスが伝わると思います。将棋に天才少年は出ても、囲碁の天才少年というのはあまり聞いたことがありません。短歌には男女の恋を詠んだ艶っぽいものが多いが、俳句の場合は詠む人が枯れていないと秀句はつくれないといいます。もちろん、どんな文化でも老若男女が楽しめる包容力を持っていますが、特に高齢者と相性のよい文化、すなわちグランドカルチャーというものがたしかにあります。
 茶道、盆栽、囲碁、俳句、水墨画、写経、能、相撲、落語、陶芸、骨董、園芸、琴、三味線、小唄、詩吟などのグランドカルチャーが、老いをこの上なく豊かに彩ってくれます。