第9回
一条真也
「俳句が与えてくれるもの」

 

 あらゆる趣味の中で、俳句ほどすごいものはないのではないでしょうか。
 何より私がすごいと思っているのは、俳句をつくるのに何も道具がいらないということです。筆もいらない、紙もいらない。あるに越したことはないが、別になくても頭のなかだけでいくらでも俳句はつくれる。これほど、手間もかからず元手もいらず、そのうえ心を豊かにしてくれるものが他にあるでしょうか。まさに究極のローリスク・ハイリターン!  五七五で表現される俳句は、その小さな形式のなかに大きな宇宙を持っています。そして、「花鳥風月」に代表されるように自然をエンターテインメントとして詠むことによって、人間の存在を自然との関わり合いにおいて再確認することができるのです。
 俳句の季語と同じように、人生にも春夏秋冬がある。人生のあらゆるステージで俳句は潤いを与えてくれます。そして、辞世の句は「死ぬ覚悟」をも与えてくれる。日本人なら、辞世の句の一つも遺して旅立ちたいものです。