第10回
一条真也
「すみません」と「ありがとう」の間

 

 話題の映画「嫌われ松子の一生」を観ました。不幸続きの松子の人生に圧倒されながらも、生きる意味について深く考えさせられる名作でした。彼女には実在のモデルがいたようです。かつて九州で女教師を務め、東京で路上生活者として変死した女性です。彼女の遺品から「生まれて、すみません」と記したメモが出てきたそうです。
 この映画を観たとき、私はある一人の女性を思い浮かべました。中村久子という方です。明治30年に生まれ、両手両足の切断という思い障害を抱えながらも、72年の人生をたくましく生き抜きました。生活苦から見世物小屋に自ら入るなど凄絶な経験を重ねながらも、生きる希望を捨てず、結婚や出産もしました。かのヘレン・ケラーが彼女に初めて面会したとき、「私より不幸な人、そして偉大な人」と涙を流しながら言ったそうです。久子は「いのち、ありがとう」を口癖とし、常に感謝の心を忘れなかったといいます。
 「すみません」と「ありがとう」の間に、人間が幸福になれる秘密があるような気がしてなりません。