第11回
一条真也
「無神経な言葉を使わない」

 

 言葉遣いで注意すべきは、無神経でがさつな言葉を使わないことです。
 フランス文学者で、名エッセイストとしても知られた河盛好蔵に『人とつき合う法』という著書があります。人間関係を論じた不朽の名著ですが、そこに芥川龍之介が自殺したときのエピソードが書かれています。
 芥川の死を久保田万太郎が水上滝太郎に電話で知らせました。久保田は詩人、水上は小説家として知られた人物で、二人とも芥川の友人でした。突然の死の知らせにおどろいた水上は、とっさに「自殺ですか」と聞くと、久保田は「はい、薬を飲んだのです」と答えたそうです。それを聞いた水上は、「なんという自分はがさつな人間だろう、さすがに久保田君は言葉に敏感な詩人だ」と思ったとか。
 この興味深いエピソードを紹介して、河盛好蔵は「どんな急場にも、粗雑な言葉を使わないというのはきわめて困難なことであるが、相手の気持、その日の虫のいどころを敏感に察して、それをことさらに傷つけるような言葉はつとめて避けることは、ちょっとした注意でだれにでもできることである」と書いています。
 結局、大切なのは、思いやりではないでしょうか。相手に対する思いやりさえあれば、無神経な言葉は自然と減ってゆくはずです。