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一条真也
「葬式の現状、どう思う?〜NHK討論番組に出演〜」

 

こんにちは、一条真也です。

先日、NHKの討論番組に出演しました。番組タイトルは「徹底討論 ふるさと再生スタジアム」で、テーマは「どうなる?あなたのお葬式・お墓」です。出演者は、宗教学者の島田裕巳さん、ミュージシャンの南こうせつさん、タレントの橋本志保さん、それにわたしの4人です。南さんは大分県のお寺の息子さんだそうで、橋本さんはガダルカナル・タカ夫人です。ベストセラー『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)の著者である島田さんと、そのアンサーブック『葬式は必要!』(双葉新書)の著者であるわたしが直接対決するというので、話題性があるそうです。

オープニングは映画「おくりびと」で、昨今の葬儀トレンドに関するVTRの後、以下のテーマについて討論しました。テーマは「葬式の現状、どう思う?」「親を見送るのは、子の義務?そんなの自由?」「直葬の急増、どう思う?」「地域社会の崩壊、高齢化、核家族の現状」「無縁社会の到来?」「共同墓をどう考える?」「『子に迷惑をかけられない』という親子関係」「無縁社会で変わる葬式の形」「無縁社会を乗り越えるために必要なことは?」などでした。そう、この番組、たとえタイトルに「お葬式」「お墓」と入っていようとも、完全にテーマは「無縁社会」なのです。出演者のみなさんは、大変な雄弁家でした。わたしも、もっと話したかったのですが、他人の話をさえぎることは礼に反します。テレビのために、自分の人生における信条を曲げることはできません。それで、基本的に比留間亮司アナウンサーの質問に対してのみお答えしました。結果、わたしの発言が一番少なかったかもしれません。それでも、議論はかなり白熱しました。わたしとしては、3対1のハンディキャップマッチのような気がしました。正直、アウェー感がありました。葬式必要論かと思っていた南こうせつさんですら、今の葬儀費用は高すぎる、直葬でもいじゃないかという立場でしたので、ちょっと調子が狂ってしまいました。でも、オフレコだった南さんのスピリチュアルな体験談は、非常に興味深いものでした。あと、「わたしが月にお墓を作ればいい」と述べたところ、島田さんが「そう、そう」と笑顔でうなずいたのは意外でした。南さんのほうを向いて、「かぐや姫が好きなんで、月も好きなんですよ」と言うと、南さんは「そりゃー、いいなあ!」と嬉しそうに笑われました。わたしは心の底から「葬式は必要!」と確信しているので、その想いだけは伝えることができたのではないかと思います。収録を終えた後、橋本さんの提案で、島田さんとわたしがお互いの著書を持って、記念撮影しました。

話は変わりますが、今年の前半のベストセラー・ランキングが発表されました。『葬式は、要らない』も上位に入っていたようですが、ダントツで1位だったのは、村上春樹さんの『1Q84』BOOK3でした。

わたしも著者の全作品を読んだほどのファンですので、4月17日の発売に早速購入して、その日のうちに一気に読みました。そこで一番関心を持ったのは、葬儀の場面です。主人公の一人である天吾の父親は、NHKの集金人をしていました。その父が、長患いの末に亡くなります。そして、棺に入るときにはその制服を着せてほしいと遺言します。天吾は、とまどいながらも、父の希望をかなえてあげます。

葬儀に立ち会う人間は、息子である彼一人だけ。そこへ、病床の父を介護した若い看護婦である安達クミが付き添ってくれます。これで父を送る「おくりびと」は二人になりました。「一緒に来てくれてありがとう」と礼を述べる天吾に対して、安達クミは、「一人だとやっぱりきついからね。誰かがそばにいた方がいい。そういうものだよ」と答える。「そういうものかもしれないな」と認めた天吾に、安達クミは次のように言うのです。「人が一人死ぬというのは、どんな事情があるにせよ大変なことなんだよ。この世界に穴がひとつぽっかり開いてしまうわけだから。それに対して私たちは正しく敬意を払わなくちゃならない。そうしないと穴はうまく塞がらなくなってしまう」この言葉は、わたしがつねづね言っていることだったので、本当にびっくりしました。世界にぽっかりと開いた穴に落ちないための方法、それこそが「葬式」と呼ばれるものなのです。人類は、気の遠くなるほど長い時間をかけて、この「葬式」という穴に落ちないための方法を守ってきました。「葬式」がなくなれば、人間はみな穴に落ちてしまうのです。こんな重要な儀式が要らないはずはありません。

2010.6.22