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一条真也
第七則「実行力」

 

 今年、北九州市内に「ムーンギャラリー」というものを2つオープンした。
 主に3つの機能がある。第1に、葬儀の事前相談窓口としてのフューネラルサロン機能。第2に、供養関連商品を展示販売するメモリアル・ショップ機能。そして第3に、ご遺族の悲しみを癒すグリーフケアサポート機能だ。
 特に3つめの機能が重要で、葬儀後のご遺族の会「月あかりの会」を同時に発足した。この組織を中心に、さまざまなセレモニーやイベントなどを通じて、グリーフケアサポートを行う。また、専門家のよるカウンセリングなどもお世話する予定である。
 この「ムーンギャラリー」および「月あかりの会」は大きな反響を呼び、連日多くのお客様が訪れている。朝日新聞をはじめとした多くのマスコミにも取材していただいた。
 多くの方々から、「新しい試みを実行されましたね」と言われたが、実は、私の心は晴れなかった。というのも、「もっと早くつくるべきだった」という想いでいっぱいだったからだ。
 グリーフケアサポートの重要性は、もう20年も前から知っていたし、私自身も数年前には『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)という「グリーフ」をテーマにした本を書いた。あのとき一気に「月あかりの会」を組織し、「ムーンギャラリー」をオープンすべきだった。
 これまで、この連載では「情報力」「知識力」「思考力」「創造力」などについて語ってきたが、いくら情報や知識を持っていて、いくら素晴らしいことを考えていて、いくら創造性が豊かでも、それらをアウトプットしなければ何の意味もない。すなわち、「実行力」というものが最終的に求められる。
 たとえば、本を書くことなども実行力だと言えるだろう。島田裕巳氏の『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)の反論本を多くの人が書こうと思っていたかもしれないが、結果として、私が最も早く実行に移し、『葬式は必要!』(双葉新書)を出版することができた。
 もちろん、出版だけではない。私は実際の経営において、さまざまな考えやアイデアを実行してきた。その最たるものこそ、ドラッカーの経営理論の実行である。かつて、わが社は膨大な赤字にあえいでいた。2001年に社長に就任した私は、「選択と集中」「知識化」「イノベーション」をはじめとする数々のドラッカー理論を導入し、それを実行してきた。社員のみなさんの理解と協力のお陰で、わが社の経営内容は格段に改善された。
 最初に導入したドラッカー理論は「選択と集中」であった。本業である冠婚葬祭の事業エリアは北海道の富良野から沖縄の石垣島まで日本全国にまで及んでいたが、それをシェアが1位の地域だけ残して、残りはすべて撤退した。茨城などは、かなりの利益が出ていたが、シェアが3位だったため、将来性を考え思い切って撤退した。
 多岐にわたる関連事業についても同様である。そのせいで、わが社の財務内容は急速に改善され、残した事業の業績もすべて向上したのである。
 ドラッカーは、「哲学者は考えるのが仕事だが、政治家や経営者は考えたことを実行に移すことが仕事」といったような言葉を残していたと記憶しているが、まさに経営というものは実行してはじめて評価されるのである。
 そして、「実行力」の大切さは、経営者だけの問題ではない。会社の各職場で働く全員に当てはまることである。
 実行の「行」というものを重視し、「知行合一」という思想を打ち立てたのが、陽明学を開いた明の王陽明(1472〜1529)だ。陽明は、本当に知るということは創造することであるとして、「知は行の始めなり。行は知の始めなり」と説いた。
 知行合一とは何か。行動の決定において、言語化された「知」だけでは不十分だ。それに言語化されない「暗黙知」を加えなければならない。
 平たくいうと、施設にゴミなどが落ちているのを見たとき、「あっ、ゴミが落ちている」と思い、「拾おうかな」と考えのではなく、ゴミを見た瞬間に体が動いて知らないうちに拾ってしまう。これは「江戸しぐさ」の精神などにも通じるものだが、知行合一の本質とはこのようなものだと思う。
 知行合一をよく理解し、情報力、知識力、思考力、創造力に加え、実行力を合わせ持つことが求められる。