第1回
一条真也
「となりびとって何?」

 

 わたしは、「となりびと」という言葉をよく使います。読んで字のごとく「隣人」のことです。いま、人付き合いに悩んでいる人が多いですね。わたしたちが生きる社会において最大のキーワードは「人間関係」ではないでしょうか。
 社会とは、つまるところ人間の集まりです。そこでは「人間」よりも「人間関係」が重要な問題になってくるのです。そもそも「人間」という字が、人は一人では生きていけない存在であることを示しています。単なる「人」ではなく、人と人の間にあるからこそ、「人間」なのです。
 いくら人間関係が難しいといっても、わたしたちは一人では生きていけません。誰かと一緒に暮らさなければなりません。
 では、誰とともに暮らすのか。まずは、家族であり、それから隣人ですね。考えてみれば、「家族」とは最大の「隣人」かもしれませんね。
 現代人はさまざまなストレスで不安な心を抱えて生きています。ちょうど、空中に舞う凧(たこ)のようなものです。そして凧が安定して空に浮かぶためには縦糸と横糸が必要だと思います。
 縦糸とは時間軸で自分を支えてくれるもの、すなわち「先祖」です。この縦糸を「血縁」と呼びます。また、横糸とは空間軸から支えてくれる「隣人」です。この横糸を「地縁」と呼ぶのです。この縦横の二つの糸があれば、安定して宙に漂っていられる、すなわち心安らかに生きていられる。これこそ、人間にとっての「幸福」の正体ではないかとわたしは思うのです。
 日本人が幸福に生きるための最大の鍵は、隣人と良好なコミュニケーションが実現できるかどうかにかかっています。隣人、すなわち「となりびと」と仲良く暮らすことが大切なのです。
 しかし、日本人の人間関係は薄れる一方で、昨年は「無縁社会」などという言葉が流行語になり、孤独死も激増しました。わたしは冠婚葬祭の会社を経営しているのですが、地域の人間関係を良くする食事会である「隣人祭り」の開催をお手伝いさせていただいています。
 東日本大震災は、わたしたちの心に大きな悲しみを残しました。しかし、大震災以降、人々の間に「支え合い」「助け合い」の心が芽生えたことも事実です。わたしは最近、『隣人の時代』(三五館)という本を書きましたが、多くの日本人が「となりびと」の大切さを知ったのです。
 次回からは、心温まる具体的な「となりびと」のエピソードの数々をご紹介していきたいと思います。どうぞ、お楽しみに!