第4回
一条真也
「ビニールひもがつなぐもの」

 

 今回は、神奈川県横浜市の団地にお住まいのCさんのエピソードをご紹介します。
 Cさんは50歳の女性なのですが、ある日、部屋のチャイムが鳴りました。新しく団地に引っ越してきた人が挨拶に来たようです。
 ドアを開けると、そこに現れたのは、金髪に近い三つ編みの女性でした。心の中で「あ、ヤンママ...」と心の中でつぶやいたCさんは一瞬で壁を感じてしまったそうです。ちょうど我が子と同じ年頃の同じく3人の子供がいると知りましたが、「高齢出産の私とは接点はないだろう」とCさんは感じました。
 しかし、引っ越してきた一家は、第一印象とはずいぶん違いました。団地の掃除や草刈りで頑張る姿、近所のお年寄りと親しく話をしている様子などから温かい人柄が伝わってきました。 
 間もなく、Cさんが娘さんの幼稚園探しで悩んでいた頃、初対面の時にヤンママさんがお子さんの通っている幼稚園の話をしていたことを思い出しました。結局、その話がきっかけで同じ幼稚園に通わせることになりました。
 ヤンママさんは「お古だけど、少しは役立つでしょ」と、幼稚園の制服など一式を譲ってくれました。Cさんは、とても助かりました。
 園のバスの送迎でも顔を合わせて2年半。地域のこと、病院のこと、ヤンママさんは何でもよく知っていて、何かにつけてさらりと情報提供してくれたり、気遣ってくれたり...。
 イカがたくさん釣れたからとお裾分けしてくれる。Cさんが魚をさばくのが苦手だと知って、刺身にしてくれたり調理までして「間に合うかな?」と夕飯時に差し入れてくれました。それも相手に気を遣わせないように、あくまでもさりげなく。まるで年下の姉のようでした。
 彼女の子どもたちとも仲良しになったCさんの子どもたちは手紙の交換を始めました。いつでも書いてやりとりできるようにベランダからビニール紐をつるし、その先の洗濯バサミに手紙を挟むというアイデアが生まれました。
 子どもたちは、手紙をひき上げたり下ろしたりしながら楽しんでいます。それを見て、階下の子どもたちも加わることになりました。 外から見ると、4階・3階・2階と一列にビニールひもがゆらゆら揺れています。Cさんは、「絆」という字が糸偏だということに納得したとか。
 「となりびと」のやさしさの種から伸びたツタのようなビニールひもは、長い年月に紡いだ絆そのものだったのです。