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一条真也
「クリスマスとサンタクロース

 〜聖なる夜の知られざる過去」

こんにちは、一条真也です。
もうすぐクリスマスですね。
現在は前日のクリスマス・イヴに押されているとはいえ、イエス・キリストの誕生日として年間最大のイベントとされています。
世界中の家族や仲間や恋人がこの日を祝います。 しかし、この日はイエスの本当の誕生日ではないことをご存知ですか。
紀元後3世紀までのキリスト教徒は、12月25日をクリスマスとして祝ってはいませんでした。 キリスト教徒は、4世紀の初頭まで、後にキリスト教会の重要な祝日となるこの日に、集まって礼拝することもなく、キリストの誕生を話題にすることもなく、他の日と何の変わりもなく静かに過ごしていました。
これに対して、同じ頃、まだキリスト教を受け入れていなかったローマ帝国においては、12月25日は太陽崇拝の特別な祝日とされていました。当時、太陽を崇拝するミトラス教が普及しており、その主祭日が「冬至」に当たる12月25日に祝われていたのです。
そして意外に思われるかもしれませんが、真冬のクリスマスとは、死者の祭りでした。
冬至の時期、太陽はもっとも力を弱め、人の世界から遠くに去っていきます。
世界はすべてのバランスを失っていく。そのとき、生者と死者の力関係のバランスの崩壊を利用して、生者の世界には、おびただしい死者の霊が出現することになるのです。
生者はそこで、訪れた死者の霊を、心を込めてもてなし、贈り物を与えて、彼らが喜んで立ち去るようにしてあげます。そうすると世界には、失われたバランスが回復され、太陽は再び力を取り戻して、春が到来して、凍てついた大地の下にあった生命が、いっせいによみがえりを果たす季節が、また到来してくることになるのです。
その死者の霊の代理を生者の世界でつとめたのが子どもでした。
子どもとは霊界に近い存在です。かつてヨーロッパの子どもたちは、真冬の暗闇に飛び出して行き、仲間たちと一隊をつくりました。そして、大人たちの家庭に押しかけては、お菓子やお供物やお金を強要していたのです。
この子どもたちの行動は大きな批判の的となり、フランス革命の後には規制が加えられるようになりました。 以後、子どもたちはこの季節がやってきても、真冬の暗闇に飛び出して行って、死者の代理人を演じることもなくなりました。
子どもたちは、暖かい家の中で家族と一緒にくつろぎながら、クリスマス祭を祝うようになったのです。 それでも大人たちは、子どもたちを通じて死者への贈り物をしなければなりません。
そこで、サンタクロースの存在が必要となりますが、それは「遠方からやって来るやさしい老人」でなければなりませんでした。
かつて死者の代理人をつとめた子どもが、今やおとなしく、クリスマスの夜に家にこもっている。 この子どもに贈り物を渡す仲間には、同じく霊界に近い存在、すなわち老人の存在が必要となる。
こうして遠い北の国から、体じゅうに死者の霊をまとった、子どもたちにやさしい老人というイメージが生まれてきます。そして、彼はただぶっきらぼうに「ペール・ノエル(クリスマスおじさん)」と呼ばれるよりも、子どもたちの守護聖人である聖ニコラウスの名前を冠した、「サンタクロース」という呼び名のほうがふさわしいのです。
昔のクリスマスでは、大人は子どもにお供物やお菓子を贈り、そのお返しに、子どもは大人たちの社会に対して来年の豊穣を約束しました。
現在、大人はサンタクロースというファンタジーを通して、子どもにオモチャやお菓子のプレゼントをします。そしてそのお返しに、子どもは大人に幸福な感情を贈ります。クリスマスにおいて、生者と死者の霊の間には、贈り物を通して霊的なコミュニケーションが発生します。人々は、それによって、心を暖かくする目に見えない力が、自分たちのまわりに出現したことを感じ取ってきたのです。
おそらくチャールズ・ディケンズが『クリスマス・キャロル』という多くの死者の霊が登場する小説で描きたかったことも、そういうことだったのでしょう。
このように日本のお盆にも似て、クリスマスとは死者をもてなす祭だったのです。
クリスマスの主役はといえば、なんといってもサンタクロースです。
ある意味では、サンタクロースは世界最高の有名人といえるのではないでしょうか。地球上の多くの子どもたちがサンタさんからのプレゼントを心待ちにしています。
ところで、みなさんは、お子さんやお孫さんから「サンタさんは、いるの?」と聞かれたことはありませんか? その答えは簡単です。サンタクロースはたしかにいます! そのことを明らかにした本が『サンタクロースっているんでしょうか?』中村妙子訳(偕成社)です。
タイトルは、バージニアという8歳の少女の問いをそのまま使っています。 この問いに、アメリカの新聞社が社説として真剣に答えました。もう100年以上前の実話です。
「ニューヨーク・サン」紙の記者だった著者は、少女に対して「見たことがないということは、いないということではないのです」と、やさしく語りかけます。 愛、思いやり、まごころ、信頼・・・この世には、目に見えなくても存在する大切なものがたくさんある。
逆に本当に大切なものは目に見えないのだと記者は説きます。そして、サンタクロースとは、それらのシンボルだというのです。
現代ほどサンタクロースの存在が求められる時代はありません。
今度、お子さんやお孫さんから「サンタさんはいるの?」と聞かれたら、「もちろん、いるよ!」と答えてあげてくださいと、わたしは多くの方々に呼びかけています。
なお、フランスの作家サン=テグジュぺリは『星の王子さま』という物語を書きました。この名作に一貫して流れているテーマは、「本当に大切なものは目に見えない」というものです。
ニューヨークに住んでいたこともあるサン=テグジュぺリは、『サンタクロースっているんでしょうか』を読んでいたのではないでしょうか。わたしには、そう思えてなりません。
2011.12.15