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一条真也
「韓国葬儀事情〜葬儀スタイルの変化」

 

こんにちは、一条真也です。
ゴールデンウィークに突入する直前、4月24日から27日にかけて韓国へ行ってきました。
「東アジア冠婚葬祭業国際交流研究会」の韓国訪問ミッションに参加したのです。この研究会は昨年より発足したもので、アジアの調査対象国の冠婚葬祭の文化の実態を調べていくことを目的としています。
今回の訪韓では、まず、今年1月にオープンしたばかりのソウル市火葬場を訪れました。場内に入ると、エントランスの巨大美術館のような空間に圧倒されました。比喩ではなく、なんと本当のミュージアムが併設されていて、驚きました。主に現代アートっぽい作品が展示されていました。展示作品を解説したパンフレットまで置かれていました。
わたしは、もともと葬儀こそは"ART"であると思っていますので、このミュージアムには感動しました。
オブジェのある広大なガーデンも用意されており、ここが火葬場とは思えません。
しかし、さらに驚かされたのは、焼却炉に入ったときでした。
まるで発電所を思わせるようなコンピュータ制御室といった感じで、多くの火葬が同時に行えます。
焼いた骨はロボットが運び、未来の火葬場を見ているようでした。
そう、このソウル市火葬場は、世界でも最も最新の設備を誇る施設だそうです。
それにしても、焼却炉をはじめ施設全体が匂いがしないのには感心しました。
悪臭がしないというより、匂いそのものが何もしないのです。おそらく、よほどすごい空気清浄システムを導入しているのでしょう。次に、わたしたちはソウル峨山(アサン)病院の葬儀場を訪れました。
この葬儀場は、韓国を代表する財閥である現代グループが経営する韓国最大の葬儀場です。「あの現代が葬儀場を経営しているのか!」と驚かれる方もいるかもしれませんが、その通りです。
現代だけでなく、三星グループも葬儀場を経営しています。日本でいえば、トヨタや三菱がセレモニーホールを経営するようなものですね。
わたしは以前、三星の葬儀場は訪問しましたが、現代の葬儀場は初めてです。
まず、その巨大さに圧倒されました。病院も大きいですが、葬儀場も大きい!
中に入ると、エントランスはホテルのロビーのような雰囲気でした。エントランスの奥には、電光掲示板で本日の故人の情報が顔写真つきで表示されていました。それにしても、すごい数です。
この葬儀場には、全部で21のホールがあります。また、年間で2125件の葬儀が行われるそうです。
ホールの数は減らして、各ホールの面積を広げる傾向にあります。なぜなら、韓国では葬儀の参列者が年々増加しているというのです。縁を見直す気運が盛り上がっているせいだそうで、「無縁社会」とか「葬式は、要らない」などの妄言がはびこる日本とは大違いですね。 葬儀のスタイルですが、以前は日本と韓国はほぼ同じでした。しかし、ここ数年で病院内葬儀場が流行すると、明らかにスタイルが変化してきました。病院内ということもあって、衛生面を重視しているのか、遺体が人々の面前に置かれなくなったのです。患者が亡くなると、遺体は洗浄もされないまま、納棺ルームに運ばれます。納棺ルームで遺体が死化粧を施されるところを遺族はガラス越しに見ます。それから、遺体は安置所に運ばれ、そのまま火葬場へと向かうのです。つまり、葬儀の祭壇の前には遺体はありません。参列者は遺体なき祭壇の中の遺影に向かって参拝するのです。
わたしは、遺族が遺体の手を握ったり、髪を撫でたりすることがグリーフケアにつながると思っています。ですから、遺体を隠すというスタイルには違和感を憶えました。
最終日には「葬礼歴史文化博物館」というミュージアムを訪れました。
サンポ・シルバー・ドリームという大手葬儀社が運営しています。
「死」と「葬」の文化についての啓蒙を目的に2005年にオープンしましたが、なかなか正式な博物館として国が認めてくれませんでした。それが今年になってようやく許可が下り、グランド・オープンする運びとなったようです。
博物館は2階建てで、1階は世界の葬儀文化、2階は韓国の葬儀文化についての展示を行っています。その他にアフリカ館もあります。
このような葬儀の博物館は韓国だけでなく世界中にあるそうですが、日本にもこのような文化施設があれば、「葬式は、要らない」などの妄言も生まれなかったかもしれません。
葬礼歴史博物館を後にしたミッション一行は、そのまま次の目的地である「ユートピア追慕館」に向かいました。ここは、韓国で最大級の納骨施設で樹木葬も行っています。
3つに別れた納骨堂には、本館に3万、別館に1万、最近出来たばかりの新館に1万の納骨スペースがあります。ホテルをイメージしたというロビーは清潔感に溢れ、施設内には花や彫刻がふんだんに置かれていて、さながら本物のホテルのようでした。納骨堂というと、日本人に限らず暗いイメージを持つ人も多いですね。しかし、このユートピア追慕館は「家族の憩いの場」をコンセプトとしており、施設の周辺は家族でピクニックができる緑ゆたかなガーデンとなっています。
ユートピア追慕館のシンボルスペースになっているのは、キリスト教徒や仏教徒のための専用納骨堂です。前者にはダ・ヴィンチの「最後の晩餐」、後者にはブッダと蓮の花と「千手経」の言葉が、上方に360度で描かれています。ただ、以前来たときに比べ、両宗教の専用納骨スペースは空きが多いように感じました。一般の納骨スペースよりも高価なせいでしょうか。納骨スペースは、一族で部屋ごと買い上げる場合もあるとか。また、ソウル大学同窓生の納骨スペースというのもありました。
それから、ユートピア追慕館には「樹木葬」のエリアもあります。現在、2万坪の広大な土地に2000本の木が植えられています。樹木の種類はいろいろあって、それぞれ値段が違うとのことでした。
支配人に聞くと、やはり樹木葬よりも一般の納骨のほうが人気があるそうです。
すべての行程を終え、わたし以外のメンバーを金浦空港で見送ってから、わたしは仁川空港に向かいました。金浦は羽田行きの便しか飛びませんが、仁川なら福岡行きがあるのです。 仁川空港から大韓航空機に乗り込むと、離陸からわずか1時間ちょっとで福岡空港に着きました。
アジアは近いです。次回のミッションは、秋に台湾を訪問する予定です。
2012.5.15