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一条真也
「『こころの再生』シンポジウム

   〜遺影だって立派な幽霊づくり

こんにちは、一条真也です。
7月11日、京都大学盛財団記念館3階大会議室において、第3回「震災関連プロジェクト~こころの再生に向けて」が開催されました。
このたびの「孔子文化賞」を同時受賞させていただいた稲盛和夫氏が理事長を務められている財団の記念館です。非常に注目されているシンポジウムで、全国から超満員の200名近くの参加者が集まりました。
補助席はもちろん、通路まで座った人が並んでいるのには驚きました。
以前、わが社でフィールドワークを行った人類学者の鈴木光さんも来られていました。また、新聞社やテレビ局もたくさん来ており、わたしも取材を受けました。
最初に主催者である「京都大学こころの未来研究センター」の鎌田東二教授が恒例の法螺貝を吹いてシンポジウムの幕を開き、それから今回の「趣旨説明」をしました。
その後、芥川賞作家で福島県三春町福聚寺住職の玄侑宗久氏による基調報告「福島の現在と宗教の役割と課題」が行われました。
続いて、東京大学大学院教授で宗教学者の島薗進氏による基調報告「宗教者災害支援連絡会の活動15ケ月を振り返って」が行われました。
その後、コメンテーターとして大阪大学准教授で宗教社会学者の稲場圭信氏が登壇し、玄侑・島薗両氏の基調報告についての意見を述べました。
それから、14時46分、すなわち東日本大震災の発生時刻となったので、全員で犠牲者の鎮魂の黙祷を捧げました。わたしも、心を込めて犠牲者の御冥福を祈りました。
第2部に入り、最初は國學院大學准教授で宗教学者の黒崎浩行氏による報告「被災地の神社と復興の過程」が行われました。写真が多く、わかりやすかったです。
そして、いよいよ、わたしの出番がやってきました。わたしは、「東日本大震災とグリーフケアについて」のタイトルで報告をしました。最前列の鎌田先生や島薗先生といった日本を代表する宗教学者、また2列目には日本仏教界のシンボルともいえる玄侑宗久さんもおられ、また他にも多くの大学関係者や宗教家の方々などがおられたので、少しだけ緊張しました。
最初に、日本人の「こころ」が神道・仏教・儒教の三本柱によって支えられていることを述べ、「今日は神道および仏教についてのお話がありましたが、わたしは儒教に親しんでいる人間です」と言いました。それから、「このたびの未曾有の大災害から『こころの再生』を成し遂げるためには、神道も仏教も儒教も、またその他の宗教も総動員する必要があります」と発言し、わたしの報告がスタートしました。
わたしたちの人生とは喪失の連続であり、それによって多くの悲嘆が生まれます。
大震災の被災者の方々は、いくつものものを喪失した、いわば多重喪失者です。
家を失い、さまざまな財産を失い、仕事を失い、家族や友人を失った。
しかし、数ある悲嘆の中でも、愛する人の喪失による悲嘆の大きさは特別です。
グリーフケアとは、この大きな悲しみを少しでも小さくするためにあるのです。
2010年6月、わが社では念願であったグリーフケア・サポートのための自助グループを立ち上げました。愛する人を亡くされた、ご遺族の方々のための会です。
月光を慈悲のシンボルととらえ、「月あかりの会」という名前にしました。
1995年、阪神・淡路大震災が発生しました。そのとき、被災者に対する善意の輪、隣人愛の輪が全国に広がりました。じつに、1年間で延べ137万人ものボランティアが支援活動に参加したそうです。ボランティア活動の意義が日本中に周知されたこの年は、「ボランティア元年」とも呼ばれます。
16年後に起きた東日本大震災でも、ボランティアの人々の活動は被災地で大きな力となっています。そして、2011年は「グリーフケア元年」であったと言えるでしょう。
グリーフケアとは広く「心のケア」に位置づけられますが、「心のケア」という言葉が一般的に使われるようになったのは、阪神・淡路大震災以降だそうです。
被災した方々、大切なものを失った人々の精神的なダメージが大きな社会問題となり、その苦しみをケアすることの大切さが訴えられました。
今日は、「月あかりの会」で実際に取り組んできた事例を中心に報告しました。
終了後、盛大な拍手を頂戴し、感激するとともに安堵しました。
その後、コメンテーターとして東北大学教授で宗教民俗学者の鈴木岩弓氏、高野山大学准教授でスピリチュアルケア学者の井上ウィマラ氏が登壇し、発言されました。
お二人とも、わたし自身が勉強になる素晴らしいコメントでした。
特に、井上ウィマラ氏はグリーフケア理論の第一人者でもあり、これからお互いに情報交換する約束をしました。聞くと、井上氏はミャンマーにも修行に行かれていたそうで、なんと、北九州市の門司にある上座部仏教の寺院「世界平和パゴダ」におられたこともあるそうです。 今度ぜひ、井上氏と一緒にパゴダを訪れたいです。
その後、出演者全員によるパネル・ディスカッションが行われました。
わたしを含む全員が「京都大学こころの未来研究センター」の連携研究員だそうです。
最初に1人が10分づつぐらい話すことになり、わたしは北九州市の瓦礫受け入れの話、それから最近とても関心のある「怪談」について話しました。シンポジウムの終了後に、作家である玄侑氏が「怪談の話は面白かったですね」と言って下さいました。
調子に乗って、「怪談」だけでなく、「幽霊」の話も大いにしました。
「わたしが今一番関心のあるのは幽霊です!」と言ったところ、最前列の老婦人がギョッとした顔をされました。でも、「葬儀の遺影だって、立派な幽霊づくり。そこには死者の生前の面影を求める人間の心情があります」と言うと、その方も頷かれていました。 そして、わたしは「グリーフケアの問題は心理学だけでは手に負えない。どうしても、霊や魂の次元にまで立ち入る必要がある。慰霊とか鎮魂という言葉を使うのであれば、霊や魂が出てくるのは当然のことではないでしょうか」と述べました。
みなさんのおかげで、今日は有意義かつ楽しい時間を過ごすことができました。 憧れの京都大学でグリーフケアの報告ができて、まことに感無量です。
その夜は、京都の百万遍で玄侑氏や島薗氏らと痛飲しました。
2012.8.1