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一条真也
「出光佐三と人間尊重〜人間はなぜ礼をするのか」

 

こんにちは、一条真也です。
『海賊とよばれた男』上下巻、百田尚樹著(講談社)という本が大きな話題を呼び、ベストセラーにもなっています。『宮本武蔵』や『竜馬がゆく』のような青春歴史小説であり、歴史経済小説でもありますが、主人公のモデルは、出光興産の創業者・出光佐三です。 出光興産は、北九州市の門司からスタートしました。現在は内科・小児科医院となっている創業の地は、わが社の「門司港紫雲閣」のすぐ近くです。
本当に、歩いて数分の距離です。近くには、「出光美術館」もあります。
地元・北九州に縁の深い実業家・出光佐三の名は幼少の頃から知っていました。何より、わたしの父であるサンレーグループの佐久間進会長が深く尊敬しており、その影響で「人間尊重」というサンレーのミッションが決定しました。「人間尊重」とは出光佐三が終生口にし続けた言葉だからです。
96年の生涯の中で、出光佐三は自社の社員に「金を儲けよ」とは一度も言ったことがないそうです。その代わりに「人を愛せよ」と言いました。そして、「人間を尊重せよ」と言いました。
「人間尊重」こそは、出光佐三の哲学を象徴する一語です。
昭和28年4月、新入社員の入社式で出光佐三は次のような訓示を行いました。
「出光は事業会社でありますが、組織や規則等に制約されて、人が働かされているたぐいの大会社とは違っているのであります。出光は創業以来、『人間尊重』を社是として、お互いが練磨して来た道場であります。諸君はこの人間尊重という1つの道場に入ったのであります」
また、昭和36年5月、在京社員への訓示において次のように述べました。
「純朴なる青年学生として人間の尊重を信じて『黄金の奴隷たるなかれ』と叫んだ私は、これを実行に移して、資本主義全盛の明治、大正時代においては、人材の養成を第一義とし、次いで戦時統制時代においては、法規、機構、組織の奴隷たることより免れ、占領政策下においては権力の奴隷たることより免れ、独立再建の現代においては数の奴隷たることから免れえた。
また、あらゆる主義にとらわれず、資本主義、社会主義、共産主義の長をとり短を捨て、あらゆる主義を超越しえた。かくて50年間、人間尊重の実体をあらわして『われわれは人間の真に働く姿を顕現して、国家社会に示唆を与える』との信念に生き、石油業はその手段にすぎずと考えうるようになったのである」 とても実業家の言葉とは思えませんが、出光佐三は生涯そんな言葉ばかり吐き続けました。それなのに、事業経営でも希代の成功者となった事実には考えさせられます。
わたしは『法則の法則』で「究極の成功法則」というものを紹介しました。「成功したい」という「夢」を多くの人が持っています。また、「夢」を持つことの大切さを、いろんな人が説いています。しかし、真の成功者はみな、世のため人のためという「志」という名の最終目標を持っていました。とにかく、「志」のある人物ほど、真の成功を収めやすい。なぜでしょうか。 
「夢」とは何よりも「欲望のかたち」です。「夢」だと、その本人だけの問題であり、他の人々は無関係です。でも、「志」とは他人を幸せにしたいわけですから、無関係ではすみません。自然と周囲の人々は応援者にならざるをえないわけです。「幸せになりたい」ではなく、「幸せにしたい」が大切なのです。いったん「志」を立てれば、それは必ず周囲に伝わり、社会を巻き込んでいき、結果としての成功につながるのではないでしょうか。
企業もしかり。もっとこの商品を買ってほしいとか、もっと売上げを伸ばしたいとか、株式を上場したいなどというのは、すべて私的利益に向いた「夢」にすぎません。そこに公的利益はないのです。真の「志」は、あくまで世のため人のために立てるもの。そのとき、消費者という周囲の人々がその「志」に共鳴して、事を成せるように応援してくれるように思います。そして、その「究極の成功法則」を実証した人物の1人こそ、出光佐三ではなかったでしょうか。
2500年前の古代中国で孔子が説いた「礼」こそは、「人間尊重」の思想でした。
陽明学者の安岡正篤は、「人間はなぜ礼をするのか」について考え抜きました。彼は「吾によって汝を礼す。汝によって吾を礼す」という言葉を引き合いに出して、「本当の人間尊重は礼をすることだ。お互いに礼をする、すべてはそこから始まるのでなければならない。お互いに狎れ、お互いに侮り、お互いに軽んじて、何が人間尊重であるか」と喝破しました。
また、「経営の神様」といわれた松下幸之助も、何より礼を重んじた人でした。 彼は、世界中すべての国民民族が、言葉は違うがみな同じように礼を言い、挨拶をすることを不思議に思いながらも、それを人間としての自然の姿、人間的行為であるとしました。
すなわち、礼とは「人の道」であるとしたのです。
「人間尊重」の思想は、「人が主役」と唱えたドラッカーにも通じます。
出光佐三は「人間尊重」と「人物養成」を並べて口にすることが多かったそうです。
これは、「尊重される人間になれ」というメッセージがあったのでしょう。
彼は「尊重すべき人間になれ。そして、尊重すべき人間というのは平和と福祉を打ち立てる人間だと、こういう意味だ。人間に物を与えたりなにかすることが、人間尊重じゃないよ」という言葉を残しています。それとともに、企業とは人間を育成する場であるという理念がありました。「人間を育てるのに金を惜しむな」というのも彼の口癖だったそうです。
これもドラッカーのマネジメント思想に通じます。
ちなみに、出光佐三は1885年生まれ、松下幸之助は1894年生まれ、安岡正篤は1898年生まれ、そしてドラッカーは1909年生まれと、ほぼ同時代人です。わたしは、いつの日か、この4人の人物の人間尊重思想を俯瞰した本を書きたいと思っています。
出光佐三は「石油業は、人間尊重の実体をあらわすための手段にすぎず」と言いました。不遜を承知で言わせていただければ、わたしは「冠婚葬祭業とは、人間尊重の実体をあらわすことそのものである」と思っています。4月1日、サンレーグループの入社式において、新たに仲間となる新入社員たちに伝えた最大のメッセージも「人間尊重」でした。
2013.4.15