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一条真也
「儀式文化創造シンポジウム

 〜人間を幸せにする"かたち"」

こんにちは、一条真也です。
8月8日、わたしはシンポジウムに出演しました。
一般社団法人・全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の40周年記念のイベントとして、「新しい儀式文化の創造に向けて」というパネル・ディスカッションが行われました。この6月3日より、全互協は一般社団法人となり、新定款には「冠婚葬祭儀式文化の保存・継承等に関する事項」を加えて事業に取り組んでいくこととなりました。
このシンポジウムでは、人生儀礼(通過儀礼)の成立の過程などに触れながら、全互協と加盟互助会が人生儀礼にどう取り組むべきかを探りました。
会場は、東京・大塚の「ホテルベルクラシック東京」です。
広い会場が満員になりましたが、パネリストは以下のメンバーでした。
●石井研士氏(國學院大學神道文化学部長)
●波平恵美子氏(お茶の水女子大学名誉教授)
●藤島安之氏(互助会保証社長)
●一条真也(作家・北陸大学客員教授)
わたしが全互協主催のイベントに出演するのは2010年7月の「孤独死講演会」、2012年1月の「無縁社会シンポジウム」に続いて、早くも3回目になります。今回は特に全互協の創立40周年記念シンポジウムへの出演ということで誠に光栄でした。
このシンポジウムには、テーマが3つありました。
1つめは、「人生儀礼とは何か」ということ。
2つめは、「人生儀礼を現代において再生するにはどのような方法があるのだろうか」ということ。
そして3つめは、「互助会が今後できること、そして担うべきこと」です。
最初は、各パネリストの自己紹介と簡単なプレゼンテーションが行われました。
わたしは、冒頭で以下のように話しました。
「わたしは、大学で孔子の思想などを教えていますが、特に『礼』について重点的に説明します。『礼』は儀式すなわち冠婚葬祭の中核をなす思想ですが、平たく言うと『人間尊重』であると思います。この『人間尊重』は、わが社のミッションでもあります。『礼』を形にしたものが『儀式』です。孔子は『社会の中で人間がどう幸せに生きるか』ということを追求した方ですが、その答えとして儀式の重視がありました。人間は儀式を行うことによって不安定な『こころ』を安定させ、幸せになれるのです。儀式とは、幸福になるためのテクノロジーなのです」
続いて、「儀式の果たす役割」について次のように話しました。
「儀式の果たす主な役割は、まず『時間を生み出すこと』にあります。日本における儀式あるいは儀礼は、『年中行事』と『人生儀礼』の2種類に大別できますが、これらの儀式は『時間を生み出す』役割を持っていました。わたしは、『時間を生み出す』という儀式の役割は『時間を楽しむ』に通じるのではないかと思います。『時間を愛でる』と言ってもいいでしょう。日本には『四季』があり、『春夏秋冬』があります。わたしは、儀式というものも季節のようなものだと思います。『ステーション』という英語の語源は『シーズン』から来ているそうです。人生とは1本の鉄道線路のようなもので、山あり谷あり、そしてその間にはいくつもの駅がある。季節というのは流れる時間に人間がピリオドを打ったものであり、鉄道の線路を時間に例えれば、まさに駅はさまざまな季節ということになります。そして、儀礼を意味する『セレモニー』も『シーズン』に通じるのではないでしょうか。七五三や成人式、長寿祝いといった人生儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。わたしたちは、季語のある俳句という文化のように、儀式によって人生という時間を愛でているのかもしれません。それはそのまま、人生を肯定することにつながります。 そう、儀式とは人生を肯定することなのです」
第二部では、「新しい儀式の創造」について話しました。まず最初に、儀式の創造には以下の3つのポイントがあると述べました。
1.よく知られた儀式のイノベーション(七五三、成人式、長寿祝いなど)
2.あまり知られていない儀式の紹介(十三祝い、清明祝い、元服式など)
3.まったく新しい儀式の創出(1万日祝い、3万日祝いなど)
そしてこの中では、1の「よく知られた儀式のイノベーション」が一番可能性を持っていると思います。七五三・成人式・長寿祝いに共通することは、基本的に「無事に生きられたことを神に感謝する儀式である」ということ。いずれも、神社や神殿での神事が欠かせません。最近、神事を伴わない衣装・写真・飲食のみの「七五三プラン」や、同級生との飲み会に過ぎない「成人式プラン」などがあるようですが、こんなものは儀式でも何でもない。単なるイベントです。
わたしは、「おめでとう」という言葉は心のサーブで、「ありがとう」という言葉は心のレシーブであると思っています。現在の成人式では「おめでとう」(サーブ)と言われるばかりですね。しかし今後は、これまでの成長を見守ってきたくれた神仏・先祖・両親・そして地域の方々へ「ありがとうございます」という感謝を伝える(レシーブ)場を提供していくことが必要だと考えます。ぜひ、サーブとレシーブ、「おめでとう」と「ありがとう」が活発に行き交うような社会づくりのお手伝いをしたいです。まずは、「命を与えられ、これまで生かしていただいたことに感謝する」こと。
儀式文化のイノベーションは、「感謝」の心を呼び起こすことでもあるのです。
日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化があります。
そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在しています。
儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるでしょう。
「文化の核」を保存・継承することほど、日本人の「こころ」の未来にとって不可欠な仕事はありません。最後はそのようなことを述べました。
わたし自身、今回のシンポジウムでは学ぶところの多い非常に有意義な時間を過ごすことができました。正直言って、まったく時間が足らず、用意していた発言の10分の1ぐらいしか言えませんでした。
完全に消化不良です。再度このような機会があれば、ぜひ参加したいです。
わたしは人間にとって「神話」と「儀礼」が不可欠であると心の底から思っています。今後も、日本人の「こころ」の未来のために、人間を幸せにする「かたち」としての儀式を追求していきたいです。
2013.9.15