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一条真也
生活の古典

 

 『決定版 年中行事入門』(PHP研究所)を上梓した。
 おかげさまで好評で、多くの冠婚葬祭互助会でも活用していただき、嬉しい限りだ。
 来年4月末で終わる「平成」は大きな変化の時代だった。なによりも日本中にインターネットが普及し、日本人はネット文化にどっぷり浸かった。
 正月に交わしていた年賀状を出すのをやめ、メールやSNSで新年のあいさつを済ます人も多くなってきた。その平成も終わるわけで、新元号になったら、日本人の間の「もう新しい時代だから、今さら昔ながらの行事をすることもないだろう」という気分はさらに強くなるであろう。
 しかし、世の中には「変えてもいいもの」と「変えてはならないもの」がある。年中行事の多くは、変えてはならないものであろう。なぜなら、それは日本人の「こころ」の備忘録であり、「たましい」の養分だからである。
 日本人の「たましい」を「大和魂」と表現したのは、大著『古事記伝』を書いた国学者の本居宣長だ。彼はその最大の養分を『古事記』や『万葉集』や『源氏物語』という「書物の古典」に求めた。
 一方、民俗学者の折口信夫は、正月、節分、雛祭り、端午の節句、七夕、お盆などの年中行事を「生活の古典」と呼び、その重要性を説いた。
 書物の古典にしろ、生活の古典にしろ、昔から日本人が大切に守ってきたものを受け継ぐことには大きな意味がある。それは日本人としての時間軸をしっかりと打ち立て、大和魂という「たましい」を元気づけるからである。
 新しい時代が訪れても、日本人がいつまでも平和で自然を愛する心ゆたかな民族であり続けてほしい。そんな願いを込めて、『決定版 年中行事入門』を書いた。季節の折々に手に取っていただければ幸いである。