第4回
一条真也
「敬老文化で、みんな生き生き!」

 

 江戸の町人社会には、相手を思いやる「江戸しぐさ」がありました。そして、そこには「人は老いるほど豊かになる」という思想がありました。
 耳順、つまり60歳の還暦の年代の「江戸しぐさ」は、「畳の上で死にたいと思ってはならぬ」「おのれは気息奄々(きそくえんえん)、息絶え絶えのありさまでも、他人を勇気づけよ」「若衆を笑わせるように心がけよ」でした。
 60歳を越えたら、他人のためにはつらつと生き、慈(いつく)しみとユーモアの精神を忘れないよう心がけたそうです。これを「耳順しぐさ」といいますが、その心得は、何よりも若者を立てることでもありました。そして、そのぶん若者たちは隠居をはじめとした年長者たちを日頃から尊敬し、大いなる江戸の「敬老文化」が築かれていったのです。
 こうした江戸の「年代しぐさ」のバックボーンには、「共生」の文化がありました。若者には、自分より体力的にハンディキャップのある年長者をつねに思いやる「くせ」が身についていたのです。江戸では、年長者も若者もみな生き生きと暮らしていました。現在の私たちが学ぶところはあまりにも多いと言えるでしょう。