第3回
一条真也
「うどん屋さんで泣いた話」

 

 あるお葬式でのエピソードです。喪主はガンで奥様を亡くされたご主人です。最愛の伴侶を失った悲しみからか、通夜前から神経質そうに振る舞われていました。会場には故人が生前に作った人形がたくさん飾られましたが、その位置を何度も修正されていました。そして、ご主人は自身が制作したDVDを弔問客に見せられました。それは2人の出会いから現在までの軌跡を記録したものでした。  通夜後の喪主あいさつでは次のように話をされました。「最近何だか具合が良くない」と言う奥様の診察に軽い気持ちで付き添って病院へ行ったこと、思いもかけず医師から末期ガンだと告知されたこと、2人とも無言のまま病院を出たが奥様が突然「うどんが食べたい」と言い出したので近くのうどん屋さんに入ったこと、そして出されたうどんを前に人目をはばからず子どものように2人で泣いたこと―。ご主人の悔しさ、悲しみ、奥様への深い愛情がひしひしと感じられ、その思いが痛いほど参列者に伝わってきました。
 この話をしてくれた「おくりびと」は、うどんが大好物でうどん屋さんによく行くそうですが、その度にこのエピソードを思い出してしまうと語っていました。