第6回
一条真也
「披露宴は必ずやるように!」

 

 ある結婚式のエピソードです。
 結婚式を控えたある日、新郎の父親が倒れました。意識がもうろうとする中、新郎に「披露宴はどんな状況になっても必ずやるように!お前の晴れ姿を楽しみにしていたのだから...」と言われたそうです。間もなく、父親は亡くなりました。親戚一同が集まった際、当然ながら式の延期の話が出ました。しかし、新郎は「日程通り行います」とみんなに告げました。反発した親戚の一部からは式に出ないと言われたそうです。
 新郎は暴走族まがいのふるまいで親不孝の連続でした。母親の死に目にも会えず、父親にも多くの心労を与えてきました。深い親の愛に気付いた新郎は、本来は喪に服すべきだと知りながら、あえて父親の遺言に従うことを決意し、東京・大阪・香川など、反対する親戚をすべて訪問しました。そこで父親の遺志を伝え、参列をお願いしました。式の中、親戚代表の方が「子が親を思う心より、親が子を思う親心ははるか上にあります。そこに感銘し、今回は親戚一同、一人も欠けることもなく、この披露宴を祝福します」とあいさつされ、会場全体が温かい涙であふれました。