第4回
一条真也
「お前に娘はやらん」

 

 ある結婚式のエピソードです。
 順調に披露宴が進む中、クライマックスである両親への花束贈呈を前に、とんでもないハプニングが起きました。なんと、新婦の父親が新郎に向かって「お前に娘はやらん」と大声で叫んだのです。  明らかに酔っていました。普段はお酒を飲まないのに、参列者からのお酌をどうしても断れなかったようです。必死になだめる新婦の母を横目に、父は「娘はやらん」と繰り返していました。
 会場はシーンと静まり返り、緊迫した空気が流れました。誰もがこの状況を何とかしなければと思っていましたが、何もできません。その時、自分の父親のことを思い出した女性司会者が、目にいっぱい涙を浮かべてこう言いました。
 「新婦様はこんなにもすてきなご両親の愛情をたくさん受け、大切に育てられてきたのでしょう。そんな新婦様は、ご両親思いの優しいすてきな女性に成長されました。きっと嫁がれても、ご両親を思い、大事になさることでしょう」。
 その瞬間、会場には割れんばかりの大きな拍手と「おめでとう」の掛け声。新婦の父親と新郎は、互いに肩を抱き合って涙しました。