第9回
一条真也
「仲の良い夫婦の話」

 

 あるお葬式のエピソードです。
 ご主人を亡くされた奥様がいました。2人の間にはお子さんはありませんでしたので、「独りぼっちになってしまった」と本当に寂しそうでした。
 気になった「おくりびと」が、しばらくしてから挨拶に行ったところ、奥様は快く迎えてくれました。「主人は優しい人だったので、しかられたことがないのよ」と話す奥様は終始笑顔でした。夫婦円満の秘訣を尋ねると、「相手に合わせること」と一言。
 奥様は続けて、「私は何のとりえもないので、主人にただ尽くすことしか出来なかったの。頭も悪いし、失敗も多かったけれど、そんな私を主人はいつも笑って見守ってくれたの。本当に優しい人だったのよ。と、思い出を語ります。しかし、「主人はどんな小さなお菓子でも2人で食べようと言って、必ず私に半分分けてくれる人だった」と話した途端に号泣し、涙は止まりませんでした。  その姿を見た「おくりびと」は、ご主人への愛情の深さを思い知るとともに、仲の良い夫婦の話から「思いやり」の心の大切さを学んだ気がしました。