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一条真也
二つの非常ベル

 

十年ぶりに本を書いて出版した。『結魂論/なぜ人は結婚するのか』と『老福論/人は老いるほど豊かになる』(ともに成甲書房)の二冊である。冠婚葬祭業のミッション(社会的使命)について考えて考えて考え抜いた結果、この二冊が生まれた▼『結魂論』は結婚および結婚式をあげる意味を、その本質から考えてみる試みである。ハウスウェディングが流行だが、昨年、日本人の結婚は一大転機を迎えた。離婚件数が初めて三十万件を突破したのである。実に二十年前の約二倍だ。今こそ、結婚や結婚式の意味を真剣に考えなければ、大変なことになる▼もう一つ、日本では九八年以降、自殺者数が連続して三万人を上回って、大きな社会問題となっている。交通事故死の三倍以上だ。自殺者のほとんどは中高年男性であるという。ひたすら「若さ」と「生」を謳歌してきた近代工業社会は終り、「老い」と「死」に正面から向き合う時代を迎えた。そこでは「生老病死」をポジティブにとらえる思想が必要とされ、それを提示したのが『老福論』である▼離婚と自殺という二つの非常ベルが日本人の心に鳴っている。誰よりも結婚と死に近い冠婚葬祭にたずさわる者として、その音を聞き逃してはならない。
2003年12月10日