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一条真也
教養こそ真の富

 

世間を騒がせた村上ファンドの代表は、「儲けることのどこが悪いんですか」と叫んだ。「資本主義だから結局は儲けた者の勝ち」という言説が長くこの国でまかり通ってきた。そして優秀な経営者とは、とにかく儲けることに執念を燃やし、富を蓄える者だとされた▼しかし「勝ち組」のシンボルであったトヨタをはじめ、やずや、パロマなど、信じられないような企業の不祥事が相変わらず絶えない。時代は大きく変化している。アルビン・トフラーが新著『富の未来』で述べたように、経済、文化、制度、社会、知識などが歴史上類を見ない規模とスピードで新たな次元へと進んでいる▼そこでリーダーに求められるのは、ずばり「教養」である。リーダーには人間そのものや人間が営々と築いてきた伝統や文化、歴史に対する好奇心が不可欠だ。教養は、リーダーの人間として深みを創り出す▼孔子は「利によって行えば怨み多し」と言った。ドラッカーは「マネジメントは伝統的な意味における一般教養である」と述べた。日本の資本主義を創った渋沢栄一は『論語』研究の大家であったし、かのカルロス・ゴーン氏はギリシャ哲学に造詣が深い。教養こそは真の富である。そして何より、倫理の母である。(一条)
2006年8月10日