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一条真也
隣人祭り

 

マスク姿の人の数が減った。列島をゆるがせた騒ぎは収まったが、新型インフルエンザの脅威が消えたわけではない。もし冬場に大流行すれば、集会禁止といった事態もありうる▼かつて、SARSが大流行したとき、中国では冠婚葬祭が禁止された。そう、冠婚葬祭とは人間が集まる営みに他ならないのだ。疫病が広まれば、人は集まれなくなる▼もう一つ、冠婚葬祭を衰退させる要因がある。人間関係の希薄化だ。もともと、人間関係とは儀式産業のインフラではないだろうか。人間関係が豊かなら、結婚式にも葬儀にも多くの人々が参列する▼「孤独死」の問題が叫ばれて久しいが、最近では「孤独葬」も多くなってきた。参列者がゼロという寂しい葬儀のことだ。今後、ますます増加することが予想される▼現在、「隣人祭り」なるものが世界中で注目されている。同じ地域に住む人々が集う食事会だが、1999年にフランスはパリで第1回目が開催されて以来、今や世界29カ国、約800万人以上が参加する▼この波が大きくなれば、孤独死も孤独葬も減るだろう。フランスの作家サン=テグジュペリは「真の贅沢とは人間関係の贅沢である」と述べた。人間関係を豊かにする「隣人祭り」への期待は大きい。(一条)
2009年6月25日