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一条真也
家族の絆

 

わが社の社員の奥さんが癌で亡くなられた。彼も奥さんも、ともに33歳という若さだった。1歳になったばかりの娘さんが残された。本当に気の毒で、かける言葉もない▼葬儀に参列したが、個人の遺影にはトレーナー姿のカジュアルな写真が使われていた。しかも正面ではなく、顔が斜めになっている。スタッフに尋ねると、娘さんの百日祝いの写真だという。赤ちゃんを抱いている写真を遺影用にトリミングしたのだそうだ▼葬儀の最後には、DVDによる「思い出のアルバム」が流された。故人が生まれたときの写真にはじまって、宮参り、七五三、成人式、結婚式、そして、わが子の宮参り、百日祝いの写真が並ぶ▼ふと、冠婚葬祭の写真が多いことに気づいた。そう、冠婚葬祭とは、家族との思い出そのものなのだ。ラストの写真は、幸せいっぱいの結婚披露宴のショットだった▼家族の絆を結び、多くの人々との縁を再確認し、感謝の心を思い起こす場として「結婚式」も「葬儀」もある。人間にとって儀式は必要と心から思った▼故人のさまざまな冠婚葬祭を祝ってくれた家族がいれば、残された娘さんも、きっと健やかに育つだろう。冠婚葬祭がなければ、家族という存在は溶けてしまうと痛感した。(一条)
2010年6月10日