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一条真也
杖でありたい

 

5月末、社会貢献基金の授与式で訪れた尾道で足を骨折した。そのため、6月は松葉杖とともに過ごした。その後も、しばらくは一本杖を使っていた。杖には本当に世話になった▼古代学者の中西進氏が書いた『古代往還』(中公新書)によれば、ヨーロッパでは昔、足が悪くなくても聖人や学者は杖を持ったとか。なぜなら、それが知恵のシンボルとされたからだ▼魔法使いも杖を持って、いろんなものの姿を変えた。アイルランドでは杖で泉を湧かせ、地中の金を掘り当てたという。オーケストラの指揮者は今でこそ軽やかな指揮棒を振るが、昔は重い杖だった▼モーセは杖で海を二つに割り、ギリシャ神話のヘルメスは杖を持った神だった。テーバイ王の子オイディプスは怪物スフィンクスから「夜は三本足」の動物という謎をかけられる。正解は人間で、三本目の足こそ杖だった▼杖を重視するのは西洋だけではない。日本にも、各地に杖立伝説が残っている。弘法大師が杖を立てると湧いてきたのが熊本の杖立温泉だというのは有名だ▼世の中には、「あなたの杖」とか「人生の杖」といったコピーが多い。まさに杖とは「支え」や「助け」そのものではないか。互助会も、会員にとっての杖でありたいものである(一条)
2011.8.25