第20回
一条真也
『いまだから読みたい本-3・11後の日本』

 坂本龍一+編纂チーム選(小学館)

 東日本大震災の甚大な被害にショックを受けた坂本龍一氏とその仲間たちは、「いまだからこそ読むべき本」を考え、Facebook上で紹介し合い、共有し合いました。こうした非常時だからこそ思い出した、あるいは胸にひびいてきた本がたくさんあったといいます。本書は、そんな多くの本たちから選ばれたアンソロジーとなっています。
 過酷な現実を前にして、本の中の言葉に何の力があるのでしょうか。
 坂本氏によれば、地震や津波に対する流言飛語や風評、原発事故に対する嘘や隠蔽などは、すべて言葉の問題だそうです。「言葉と現実に起こっている事態の乖離がはなはだしくて、3・11前の言葉と自分の関係、言葉と現実の関係がくずれてしまった。3・11以前は言葉と現実は対応しているのだという前提のもとにみな毎日を過ごしていたのに、いまやそうではない」と嘆く坂本氏は、一方でまた、心の空虚さを埋めるのも言葉だし、自分たちの抱くこの非力な感じを支えてくれるものも言葉だと訴えます。
「人間とはつくづく言葉を食べて生きている動物なんだな」という思いを強くしたという坂本氏は、友人たちとたくさんの文章や本を挙げていくうちに、それを本にしようという話になり、せっかくならば多くの人に共感してもらえる読書案内にしたいということで、本書が生まれました。
「こういうときだからこそ、心にひびくたくさんの言葉を集めて、少しでもだれかの役に立てばと願っています」と坂本氏は述べています。
 寺田寅彦や田中正造から手塚治虫、茨木のり子、そしてアメリカの先住民族まで...どうか、選び抜かれた智恵の言葉たちを噛みしめて下さい。