第23回
一条真也
『スティーブ・ジョブズ』Ⅰ・Ⅱ

 ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳(講談社)

 2011年10月5日に、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが逝去しました。ジョブズは大変な取材嫌いで有名だったそうですが、その彼が唯一全面協力した、本人公認の決定版評伝だそうです。
 世界的ベストセラーとなった本書は、どのような本なのか。そこには、いったい何が描かれているのでしょうか。著者は、次のように述べます。
「本書に描かれているのは、完璧を求める情熱とその猛烈な実行力とで、6つもの業界に革命を起こしたクリエイティブなアントレプレナー(起業家)の、ジェットコースターのような人生、そして、やけどをしそうなほど熱い個性である。6つの業界とはパーソナルコンピュータ、アニメーション映画、音楽、電話、タブレットコンピュータ、デジタルパブリッシングだが、これに小売店を加えて7つとする人もいるだろう」
 本書には、ジョブズの魅力的な面ばかりが描かれているわけではありません。それどころか、じつに醜い一面もしっかり描写されています。部下や取引先から提案を受けると、最初は「くだらん!クズだ」と言いました。しかし数日後には、「素晴らしいアイディアを思いついたぞ!」と言って、提案とまったく同じことを話し始めることもしばしばあったといいます。
 一種の人格破綻者のようにも思えますが、やはり彼は「天才」だったのでしょう。誰よりも、デジタル革命の次なる段階を予見し、推進したのはジョブズその人でした。人類の歴史に残るイノベーターだったと思います。
 本書を読んでしばらく経ってから、わたしの元に「iPhone4S」が届きました。ジョブズの遺した品、すなわち「遺品」だと思って、愛用しています。