第31回
一条真也
『未来国家ブータン』高野秀行著(集英社)

 

 「世界でいちばん幸せな国」とされているブータンの紀行本です。
 著者はUMA(未確認生物)研究家にして辺境作家として知られ、「誰も行ったことのない場所に行き、誰も書いたことのないものを書く」を信条とし、これまで過酷な条件で未知の土地に足を踏み入れてきました。ところが今回は、なんと、「ブータン政府公認プロジェクトで雪男探し」です。
 雪男を探しながら、著者は次第にブータンという国の実情を掴んでいきます。「世界でいちばん幸せな国」は、国王を中心に小さく巧妙にまとめられていることに著者は気づきます。
 ブータン国内での国王の人気は驚くほど高いそうです。昨年、ブータンの第5代国王であるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王夫妻が来日され、爽やかな印象を残されました。日本では、ちょっとしたブータン・ブームが起きました。第4代国王のジグミ・シンゲ・ワンチュク国王もまだ50代の若さですが、現地では親子で大変な人気だとか。その人気の凄まじさについて、本書には次のように書かれています。
 「ブータンの国王、恐るべし。この国では国王は『尊敬の対象』どころではない。日本で言うならジャニーズ事務所所属の全タレントと高倉健とイチローと村上春樹を合わせたくらいのスーパーアイドルである」
 それは凄いですね!わたしは雪男探しの興味から本書を読み始めました。その意味では、肩透かしの感もありました。しかし、文明批評の書としては優れており、本書を読むことができて非常に満足しています。
 読後は、たまらなくブータンに行ってみたくなりました。