第27回
一条真也
『傍聞き』長岡弘樹著(双葉文庫)

 

 いま、非常に話題になっているミステリー短編集です。
 「おすすめ文庫王国」2012本の雑誌増刊の国内ミステリー部門でダントツの第1位だそうです。帯には、「この20年間で最高の傑作!仕掛けと感動の珠玉短編を堪能せよ」と書かれています。
 正直言って、「この20年間で最高の傑作!」というのは大袈裟かもしれませんが、たしかに面白い短編集でした。とても読みやすくて、わたしはガソリンスタンドで洗車をしている間の時間で読了しました。
 本書には、4つの短編小説が収められています。「迷走」では、患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫ります。表題作の「傍聞き」では、娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、最後は心を強く揺さぶられます。「899」では、想いを寄せる女性の自宅を鎮火中の消防士が不可解な行為をとります。そして「迷い箱」では、元受刑者の揺れる気持ちが切なく読者の胸に迫ります。いずれも、まったく予想のつかないスリリングな展開と、ハートフルな人間ドラマが見事に融合した作品ぞろいです。
 4つの短編の主人公は、いずれも何らかのプロフェッショナルです。
「迷走」は救命救急士、「傍聞き」は所轄の刑事、「899」は消防士、「迷い箱」は更正保護施設の施設長という具合です。それぞれ短い作品ながら、作者がその職業のことを調べていることに感心しました。
 どの作品も派手さはありませんが、心あたたまる話ばかりです。「人情噺」とでもいうのでしょうか、どれも最後は人間への愛情が感じられて、救われる気がします。良質のミステリー短編集として、おススメです。