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一条真也
新藤兼人

 

6月2日、東京は芝の増上寺で行われた通夜に参列した。老衰のため100歳で亡くなった映画監督の新藤兼人氏の通夜である。明治、大正、昭和、平成と四つの時代を生き抜いた国内最高齢の監督であった▼2011年に作られ、天皇・皇后両陛下も御覧になった映画「一枚のハガキ」が遺作となった。この作品を入れて、新藤監督は48本の監督作、233本のシナリオを生み出した▼すべての新藤映画の中での最高傑作といえば、「裸の島」をあげる人が多いのではないか。1960年に作られ、モスクワ映画祭でグランプリに輝いた▼今でも世界中で上映され、絶賛を受けているという。この映画には、全篇セリフがない。映像と音楽のみでストーリーを進めていくという画期的な実験作品だ▼ここには、粗末で悲しくて、そして豊かな葬式が描かれている。貧しい島の貧しい夫婦の間に生まれた少年の葬式である。少年は、両親、弟、先生、同級生という、彼が愛した、また愛された、多くの「おくりびと」を得て、旅立って行った▼そう、「裸の島」は48年後の「おくりびと」と同じく、人間には葬式が必要という真理を示したのである。新藤監督ほど、志の高い映画人はいなかった。心より御冥福をお祈りしたい。合掌。(一条)
2012.6.10