62
一条真也
いじめ

 

大津の中学生自殺から「いじめ」に関心が集まっている。先日、儒教学者の加地伸行先生にお会いした。最初に、いじめ事件の話になった。先生は「全校集会のとき、まず最初に亡くなった生徒のために黙祷をすべきだった」と言われた▼中学生といえば、加地先生の著書『祖父が語る「こころざし」の物語』に紹介されているエピソードを思い出す。昔、ある中学校の教師が突然、「これから小テストをやるぞ」と言った。予告なしの抜き打ちのテストだ▼教室内にはざわめきが起こった。すると、一人の男子生徒が急に教室を飛び出して行った。水が入ったバケツを持って戻った彼は、水を教室に撒き、床を水浸しにした。「なぜ、やった?」と怒りながら問い詰める教師に対し、彼は何も答えなかった▼それから数十年後、ある女性の告白から真相が判明した。最前列に座っていた彼女は、精神的にナイーブで、抜き打ちテストのショックで、思わず失禁したという。すぐ後の席だった彼はすべてを悟り、水を撒いて彼女の秘密を隠したのだ▼彼は、そのことを絶対に人に話さなかったという。これほど勇気のある中学生が、かつての日本にはいたのだ。なんだか泣けてくる。すべての中学生に教えてあげたい話である。(一条)
2012.8.10