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一条真也
礼をしない横綱

 

 国技・大相撲が激震している。先の九州場所の終了後、横綱・日馬富士は貴ノ岩への暴行事件が原因で引退を表明した。しかし、40回目の優勝を果たした横綱・白鵬も引退すべきではないだろうか。
 白鵬ほど横綱にふさわしくない力士はいない。日馬富士暴行事件の現場に居合わせたこと、九州場所で90秒にわたって行司の判定に抗議をしたこと、優勝インタビューで暴行事件の当事者であるにもかかわらず「日馬富士関、貴ノ岩関を再び土俵に上げてあげたい」と発言したこと、その後あろうことか観客を巻き込んで万歳三唱をしたこと、そして全力士の前で「貴乃花親方を巡業部長から外してほしい」などと八角理事長に直訴したこと・・・・・・すべてが礼儀と礼節を欠く行為である。
 日馬富士が引退会見で述べた「礼儀と礼節を大切にして生きてほしい」という貴ノ岩へのメッセージは、むしろ白鵬にこそ送られるべきである。
 特に問題なのが、九州場所11日目、結びの一番で初黒星を喫した後、土俵下で右手を挙げて勝負審判に立ち合い不成立をアピールし続け、勝負後の礼をしないという前代未聞の振る舞いをしたこと。
 長い大相撲の歴史でも、横綱の品格が最も損なわれた瞬間であった。相撲の原則は「礼に始まり礼に終わる」であり、礼をしないで横綱が土俵を下りるなど言語道断。
 大相撲は単なる格闘技ではない。勝っても負けても相手に敬意を表す。白鵬は、対戦相手のみならず、土俵上の神にも礼をしなかったのだ。
 そもそも「横綱」とは、横綱だけが腰に締めることを許される綱の名称である。その綱は神社に飾る「注連縄」のことであり、そこには御幣が下がっている。つまり、横綱とは神聖な存在なのである。そのことを理解しない力士は横綱ではない。
2017.12.20