第38回
一条真也
『泣いて生まれて笑って死のう』

 昇幹夫著(春陽堂)

 著者は産婦人科であり、自らを「むかえびと」と名乗っています。また、ガン患者などに向けて「笑い」の効用を説き、現在は「日本笑い学会」副会長だとか。
 本書には、まず著者の育児や教育についての考えが述べられています。かのナポレオンは、「子どもの教育はいつから?」と聞かれて、「子どもの生まれる20年前にその母親から始めよ」と答えたそうです、偉人には立派な母親がいたというのが定説のようですが、母親が育児に専念できるのは父親の大きな精神的バックアップがあればこそですね。
 著者は、「育児は育自、教育は共育、育った結果を見て、生まれつきと考えるのはやめて、親子ともども成長しましょう」と述べます。本書には、このような一種のダジャレが満載で、他にも「逝き方は生き方」、「笑進笑明」などの言葉が紹介されています。
 さらに、著者は次のように述べます。
「ガンという病名、音の響き、いやですね。これがガンという病名でなくてポンという病名だったらどうでしょう。国立ポン研究所なんて笑っちゃいますね。(中略)胃ポン、肺ポン、乳ポンなど怖いイメージはありませんね。こんなことも病む人の気持ちを明るく前向きにしてくれるんですよ」
 わたしは、この著者の指摘はものすごく重要ではないかと思います。言葉には手垢がつくもの。その音を聞いただけでイメージができあがる。たとえば便所と聞くと悪臭を感じますが、パウダールームと言い換えるとイメージが変わります。
 それは別にカタカナに限りません。「おくりびと」という日本語が、いかに従来の葬祭業者にまとわりついていた負のイメージを落としてくれたことか。それにしても、ガンをポンに変えるとは!これには、わたしも仰天しました。
 このように著者はユーモアの感覚に満ち溢れた人生の達人ですが、不治の病とされるガンに立ち向かう知恵を紹介しています。その最大の方法こそは笑うことです。笑うと、ガン細胞を直接攻撃するリンパ球である「NK細胞」が活性化されるというのです。
 そして笑いと同じくらいNK細胞を上げるのが泣くことだそうです。涙の中にストレスホルモンが排出されるからだそうで、著書いわく「シクシク泣いて4×9で36、ハハハは8×8で64、合わせて100。泣いて笑ってちょっとだけ笑いが多ければいい人生ですね」
 いやあ、ポンにも参りましたが、これにも一本取られました。ぜひ、ご一読を。