第14回
一条真也
『身につけよう!江戸しぐさ』

 越川禮子著(KKロングセラーズ)

 東日本大震災以来、日本人のマナーの良さが見直されています。 地震が発生した3月11日の夜に「ツイッター」の中国版に1枚の写真が投稿されました。それは、地震のためにJR新橋駅の構内で足止めされた通勤客の写真です。階段で通行の妨げにならないよう両脇に座り、中央に通路を確保している姿でした。その規律正しさに衝撃を受けた中国の人々は、「中国は50年後でも実現できない」「とても感動的」「われわれも学ぶべきだ」と述べ、ついには日本を「マナー世界一」と称しました。
 地震直後の東京における冷静な対応は、日本人の「こころ」の中に流れている「譲り合いの精神」というDNAです。そして、見えない「こころ」は「しぐさ」として見える形になります。すなわち、「江戸しぐさ」です。
 著者は、思いやりの作法として知られる「江戸しぐさ」の第一人者です。
 江戸しぐさとは、江戸時代に商人を中心とした町人たちの間で花開いた「思いやり」の形です。出会う人すべてを「仏の化身」と考えていた江戸の人々は、失礼のないしぐさを身につけていました。
 譲り合いの心を大切にし、自分は一歩引いて相手を立てる。威張りもしなければ、こびることもしない。あくまでも対等な人間同士として、ごく自然に実践していたものが江戸しぐさなのです。
 人にして気持ちいい、してもらって気持ちいい、はたの目に気持ちいいものが江戸しぐさです。大震災によって、帰宅難民が大量に発生しても、国際都市である東京には、「江戸しぐさ」が残っていたのですね。全ての日本人が身につけたいものです。あなたも、江戸しぐさを身につけませんか?