第30回
佐久間庸和
「永遠の知的生活」

 

 昨年末、上智大学名誉教授の渡部昇一氏との対談本『永遠の知的生活』(実業之日本社)を上梓した。おかげさまで多くの方々に読まれているようだ。

 渡部氏は「知の巨人」として有名な方であり、氏と対談させていただいたことは昨年で最も思い出に残る出来事となった。

 わたしは渡部氏の著書はほとんど読んでいるつもりだが、最初に読んだ本は大ベストセラー『知的生活の方法』(講談社現代新書)であった。同書を知ったのは、日新館中学1年のときで、当時の小田郁夫校長が紹介してくださったのである。
 早速、小倉の魚町にあった金榮堂書店で本を購入したわたしは、一気に読了。そこに書かれていた知的生活の素晴らしさに大変なショックを受けた。

 このときから、読書を中心とした知的生活を送ることこそが理想の人生になり、生涯を通じて少しでも多くの本を読み、できればいくつかの著書を上梓したいと強く願うようになった。

 わたしの書斎にある『知的生活の方法』は、もう何十回も読んだためにボロボロになっている。表紙も破れたので、セロテープで補修している。この本は、わたしのバイブルだ。

 わたしを長年憧れ続けた方に合わせてくれたのは、日新館中学の同級生である江藤裕之君だった。

 2013年11月に、35年ぶりに開かれた中学の同窓会で再会した江藤君は、東北大学大学院の英語学の教授になっていた。彼はなんと上智大学で渡部氏に学び、今も恩師と親交を続けているという。

 なつかしい『知的生活の方法』の話題で盛り上がったわたしたちは、渡部氏のご自宅を訪問する計画について語り合った。

 その計画が実現したのは翌14年の七夕である。東京の最寄り駅で江藤君と待ち合わせし、そこから渡部邸へ向かいました。そして、稀覯本の並んだ書斎、15万冊もの蔵書を収めた書庫を拝見した。わたしにとっては夢のような時間であった。

 そのときの会話がきっかけとなって、同年8月に渡部氏と対談させていただいた。対談は『知的生活の方法』の思い出から始まり、書斎や書庫の話をした。

 何よりも強く感銘を受けたのは、渡部氏が「世界一」とさえ言われる書斎および書庫をなんと77歳で作られたという事実であった。世の中には「読書家」や「愛書家」や「蔵書家」と呼ばれる人々がいる。それらは必ずしも一致しないのだが、渡部氏こそは読書家であり、愛書家であり、蔵書家である。この3つが矛盾なく一致しておられる稀有な教養人であると思った。