第34回
佐久間庸和
「空海とハリー・ポッター」

 

 ゴールデンウィークが明けた頃、高野山を訪れた。ちょうど4月2日から5月21日まで50日の間、弘法大師空海が残した大いなる遺産への感謝を込めて、絢爛壮麗な大法会が執り行われていた。
 その記念として、わたしは昨年末に『超訳 空海の言葉』(KKベストセラーズ)を監訳した。現代人の心にも響く珠玉の言葉は、まさに「永遠の真言」と言えるだろう。
 空海は「お大師さま」あるいは「お大師さん」として親しまれ、多くの人々の信仰の対象ともなっている。宗教家や能書家にとどまらず、教育・医学・薬学・鉱業・土木・建築・天文学・地質学の知識から書や詩などの文芸に至るまで、実に多才な超天才であった。
 「即身成仏」の思想を追い求めていた空海は、最後の奇跡を体現させるために、長い五穀断ちをして瞑想後に入定したといいます。
 真言宗では1000年以上たった今でも、空海は高野山奥の院の石室で生きているとされ、毎日食事が進上され続けている。姿の見えなくなった空海が、今なお瞑想を続けているとされているのである。
 神秘と謎の光に包まれ、加持祈祷で有名な稀代の魔術師でもあった空海は、死後「弘法大師」の称号を受けた。「弘法大師伝説」の言葉通り、彼ほど伝説に彩られた人物はいない。
 高野山に登った翌日、わたしは大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を久しぶりに訪れた。ここは昨年オープンした「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の話題で持ちきりである。
 映画「ハリー・ポッター」シリーズを知らない人はいないはず。シリーズの全作品が、世界中で爆発的なヒットを記録した。原作はJ・K・ローリングによるファンタジー小説である。1990年代のイギリスを舞台に、魔法使いの活躍を描いている。
 その魔法の世界を再現したテーマパークを大いに堪能しながら、昨日の高野山にどことなくムードが似ている気がした。思えば、空海もハリー・ポッターも偉大なる魔術師だ。
 空海が平安日本のハリーなら、ハリーは現代イギリスの空海なのかもしれない。両者の背景には、伝説やファンタジーといった豊かな物語世界がある。
 「魔法」とは正確にいうと「魔術」のこと。西洋の神秘学などによれば、魔術は人間の意識、つまり心のエネルギーを活用して、現実の世界に変化を及ぼすものとされている。
 ならば、冠婚葬祭などのセレモニーも魔法になりうるわけで、わたしは多くの方々を幸せにする「白魔術師」になりたいと思った。