35
一条真也
「『父の日』をお忘れなく!」

 

 6月の第3日曜日となる19日は「父の日」である。例年、わたしは妻が選んだネクタイを持って実家を訪れ、父にプレゼントする。今年で81歳になる父はニコニコしながらそれを受け取ることだろう。
 「母の日」に比べて、「父の日」はどうも盛り上がりに欠ける。もともとは20世紀の初頭にアメリカで生まれた記念日で、ワシントン州スポケーンの女性、ソノラ・スマート・ドッドの発案によるものだ。
 彼女の母は早く亡くなり、父は男手ひとつで6人の子どもたちを育てた。当時、すでに「母の日」は始まっていたが、ソノラは「母の日があるなら、父に感謝する日もあるべき」と牧師協会に嘆願したという。
 世界初の「父の日」の祝典は、1910年6月19日、スポケーンで行われた。16年、アメリカ合衆国第28代大統領ウッドロー・ウィルソンは、スポケーンを訪問。そこで「父の日」の演説を行ったことにより、アメリカ国内で「父の日」が認知されるようになったそうだ。
 また66年、第36代大統領リンドン・ジョンソンは、「父の日」を称賛する大統領告示を発し、6月の第3日曜日を「父の日」に定めた。正式に「父の日」が国の記念日に制定されたのは72年のことである。
 このように、「父の日」そのものは非常にアメリカ的だが、日本においても必要であると思う。なぜならば、「父の日」でもなければ、世のお父さんたちは子どもたちから感謝される機会がないではないか!
 人間関係を良くする「法則」を求めた儒教においては、親の葬礼を「人の道」の第一義とした。親が亡くなったら、必ず葬式をあげて弔うことを何よりも重んじたというのも、結局は「親に感謝せよ」ということだろう。親とは最も近い先祖である。
 「いのち」のつながりを何よりも重んじた儒教では、祖先崇拝を非常に重要視した。それは、「孝」という大いなる生命の思想から生まれた。
 どうか、「父の日」をお忘れなく!