第138回
一条真也
『孤独の意味も、女であることの味わいも』三浦瑠璃著(新潮社)
 新進気鋭の国際政治学者として注目を集めている著者の初の自伝的著作です。時折、TVで見る著者の外見や発言、身のこなしには「恵まれているいい女」というイメージが強く、それが鼻につくという人は多いと思います。正直、わたしもそんな一人でした。
 しかし、本書を読んで、けっして著者の人生が順風満帆でなかったこと、それどころか逆風の連続だったことを知り、認識を改めました。そして何より、著者の卓越した文章のうまさに脱帽した次第です。
 著者は1980年、神奈川県生まれ。幼少期を同県の茅ヶ崎、平塚で過ごし、県立湘南高校に進学。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科を修了し、博士号(法学)を取得。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表取締役に就任。「朝まで生テレビ! 」、「ワイドナショー」などテレビでも活躍する一方、旺盛な執筆、言論活動を続けています。
 本書にはショッキングな内容が多々書かれています。中学時代に遭ったいじめ、集団レイプの被害者となった悲劇、大学生時代に妻子ある男性と不倫していたこと、そして最初の子どもを死産したこと・・・・・・正直、「ここまで書くとは!」と驚きました。
 最初の子を死産で失った著者は深い悲しみの淵で打ちひしがれましたが、さまざまな不安を乗り越え、次の子を無事に出産します。
 わが子がすやすやと眠る姿を見ながら、著者は、「眺めても眺めても、あきなかった。匂いを嗅ぐだけで、あの子に寄り添うだけで、満たされた。節ごとにぷっくりと膨らんだやわらかな肌。ぽやぽやとしたおでこの生え際の、甘いミルクのような匂い。そっと持ち上げて枕の上に載せると、彼女のちいさな身体がその分だけの静かなくぼみを作った。このちいさな赤ちゃんを肥えさせて、背中が痒かったり眠かったりするそのちいさな思いを汲みとってやることが、私の日々の主な仕事になった」と述べます。愛情に溢れた名文です。
 本書の最終章となる「孤独を知ること」で、著者は孤独と悲しみと無縁ではなかった自分の人生を振り返った後で、「少なくとも、救えない子なんていないのだ、と私は思いたいし、大なり小なり誰だって傷を抱えて生きているのだ、とも思う。あなた自身を、出来事や外部に定着させてはいけない。あなたのことはあなた自身が定義すべきなのだから」と述べています。本書には著者の恋愛観なども書かれており、これがまた秀逸なのですが、いずれにしても、令和の新しい時代を生きる「女」たちにとっての生き方の指針となるようなパワーを持った本であると思いました。