第145回
一条真也
『ものの見方が変わる 座右の寓話』戸田智弘著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 イソップ物語から中国古典まで、古今東西語り継がれる人生の教えを77集めた本です。いわば叡智のカタログのような本です。
 たとえば、「ナスルディンのカギ」(トルコ民話)「墨子と占い師」(『墨子』より)、「北風と太陽」(イソップ物語)、「与えられたタラント」(キリスト教寓話)、「効率の悪い畑仕事」(『荘子』より)、「水車小屋の男」(トルストイ『人生論』より)、「狩人と鳥」(ユダヤ民話)、「三つの願い事」(ドイツの昔話)、「三年寝太郎」(日本の昔話)、「人間万事塞翁が馬」(中国古代寓話)、「閻魔王の七人の使者」(グリム童話)、「『死の意味』と『生の意味』」(『論語』より)などが並びます。
 『第六版 新明解国語辞典』(三省堂)で「寓話」という単語を引くと「登場させた動物の対話・行動などに例を借り、深刻な内容を持つ処世訓を印象深く大衆に訴える目的の話」と書かれています。
 右に挙がっているイソップ寓話や仏教寓話、荘子の寓話などが代表的なものです。「本書ではこういう寓話に加えて、聖書で語られるイエスのたとえ話、道話(人の行うべき道を説いた話)、逸話、笑い話、民話、昔話なども取り上げている。何らかの教訓を読みとることができれば、それは広い意味で寓話だと解釈した」と、著者は述べています。
 著者いわく、寓話の目的は教訓や真理を伝えることであり、お話そのものはそれらを届けてくれる"運搬手段"だといいます。別の言い方をすると、寓話においては教訓や真理こそがその核であり、お話はそれらを包みこむ"外皮"だというのです。
 では、なぜそのような二重構造をとるのでしょうか。著者は、「教訓は苦く、真理は激しいので、そのままでは食べられない。ならば、楽しいお話で教訓や真理を包んで読者に届けようというわけだ。教訓や真理は抽象的であるのに対して、お話は具体的で動きを持っている。寓話の読み手や聞き手は登場人物や動物と同化し、お話の中に巻き込まれていく。面白さに気をとられているうちに、いつの間にか人間や世界、人生についての認識が深まっていくのである」と述べています。
 本書の77の寓話は一日に1つずつ読むのもいいですし、アトランダムにページをめくってみるのもいいでしょう。そこには、何かしらの仕事や人生の役に立つことが書かれています。それぞれの寓話についての著者の解説もわかりやすく、ふだん読書に慣れていない人でも気軽に読めると思います。読書好きな人なら、巻末に77の寓話の出典が詳しく紹介されていますので、それらの参考文献をたどっていけば、さらに読書がレベルアップされ、教養も深まることでしょう。