第11回
佐久間庸和
「アートで街づくり」

 

 先日、作家の原田マハさんの講演会が小倉で開催された。美術館キュレーターの経験がある原田さんは、『楽園のカンヴァス』や『ジヴェルニーの食卓』などの美術をテーマにした小説で知られる。
 講演のテーマは「アートで街は、必ず変わる。」というものだった。かつて、原田さんは「セントラルイースト東京」というプロジェクトに関わった。ニューヨークの「チェルシー」のように、東京の東部を「日本のチェルシーにする」という構想で始められたプロジェクトである。
 街を変えるための鍵として、「クリエイティブな人々の気持ちを引きつける仕掛け」、「地元の歴史や文化を再考し、再評価する努力」、「自発的な活動を見守る、いい意味での放任主義」という3点が参考になった。
 最後に「わたしたちはクリエイティブ・クリーチャー。クリエイティブを信じることは、人間を信じること」という言葉がわたしの心に強く残った。
 原田さんの「セントラルイースト東京」と同じく、北九州の「創を考える会」も今年で10周年を迎える。そのシンボル的存在が、同会の理事でもある染織家の築城則子さんだ。 小倉織という伝統文化を復活したことで知られる方である。
 小倉織は、徳川家康も愛用していたという。司馬遼太郎の小説によく「小倉袴」という語が出てくるが、幕末維新の志士たちにも愛用されていたようだ。
 さらには、夏目漱石の『坊っちゃん』冒頭には、主人公の坊っちゃんが小倉袴をはいて松山入りしたとある。
 久しく途絶えていた小倉織の伝統を築城さんが復元したのである。現在では、数多くの賞を受賞されている。
 その築城さんの「北九州をアートのある街に」という熱い思いで、2004年に「特定非営利活動法人創を考える会・北九州」は誕生した。理事長には岡野バルブ製造の岡野正敏会長が就任されている。
 「創を考える会」が現在特に力を入れていることは二つある。 一つは、地元作家である「平野遼」の作品展示・紹介、修復活動、管理。わが社でも多くの平野作品を所蔵しているので、大いに協力させていただく所存だ。
 もう一つは、ものづくりの街・北九州の特性を生かした「街じゅうアートin 北九州 ものづくり・ものアート」の開催。企業から提供された材料や技術を基に、作家が作品を制作する。それを街中に置いて気軽に楽しんでもらう展覧会である。
 「美」は人々の心に潤いを与え、街を活性化させる。アートが北九州をきっと元気にしてくれるだろう。