第14回
佐久間庸和
「おもてなしの時代へ」

 

 2020年の夏季オリンピックの開催地が東京に決定した。 

 アルゼンチン・ブエノスアイレスのIOC総会で東京がプレゼンテーションを行った際、滝川クリステルさんがIOC委員に東京招致を訴えた。流暢なフランス語にナチュラルな笑顔、彼女はこれ以上ない適役だった。 

 滝川さんは、プレゼンで「皆様を私どもでしかできないお迎え方をいたします。それは日本語ではたった一言で表現できます。おもてなし」と述べた。

 また、「それは訪れる人を心から慈しみ、お迎えするという深い意味があります。先祖代々受け継がれてまいりました。以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです」と続けた。

 滝川さんのプレゼンは完璧なものだったが、何よりも「おもてなし」を打ち出したところが素晴らしかった。彼女は「お・も・て・な・し」と1字ずつ印を切るように発声してから、最後に合掌しながら「おもてなし」と言い直した。その場面には、私を含めた多くの日本人が感動した。

 「おもてなし」こそは、まさにジャパニーズ・ホスピタリティである。滝川さんが合掌した姿に、IOC委員たちは「理想の日本人」を見たのではないか。 

 東京の治安が良いこととか、公共交通機関が充実しているとか、街が清潔であるとか、そういった現実的問題ももちろん大事である。しかし、「おもてなし」という言葉、そして合掌する姿が日本をこれ以上ないほど輝かせてくれた。かつての日本は、黄金の国として「ジパング」と称された。これからは、おもてなしの心で「こころのジパング」を目指したいものだ。 

 もともと「おもてなし」の心とは、言葉を交さなくても相手の気持ちを察することである。そして、そのルーツは神道の「神祭」にあるように思う。 

 2011年11月24日に開催された全国商工会議所「観光振興大会in関門」で「新しい時代の観光」と題するパネルディスカッションが行われ、私もパネリストを務めた。 

 滝川さんは東京の「おもてなし」力を華麗にアピールしたが、当時の私は北九州の「おもてなし」力をアピールしたのである。 

 小倉ゆかりの小笠原流礼法は、「思いやりの心」「うやまいの心」「つつしみの心」という三つに支えられている。礼法とは、相手のことを思いやる「こころ」のエネルギーを「かたち」にして、現実の人間関係に変化を及ぼす「魔法」である。

 いま、大いなる「おもてなし」の時代に向かって、礼法の見直しが求められるだろう。