第15回
佐久間庸和
「鐘の音で旅立ちを」

 

 先月、小倉北区霧ヶ丘にオープンしたセレモニーホール「霧ヶ丘紫雲閣」では、「禮鐘の儀」という新しい儀式が行われている。出棺の際に霊柩車のクラクションを鳴らさず、鐘の音で故人を送るセレモニーだ。

 現在、日本全国の葬儀では霊柩車による「野辺送り・出棺」が一般的である。大正時代以降、霊柩車による野辺送りが普及し、現在に至るまで当たり前のように出棺時に霊柩車のクラクションが鳴らされる。

 このクラクションを鳴らす行為には、さまざまな説がある。出棺の際に故人の茶碗を割る慣習(現在ではほとんど行われていないが、行われている地方もある)や、車両を用いた野辺送りが一般的になる以前では、遺族・親族・有縁の者が葬列を組んで鉦や太鼓の音と共に墓地まで野辺送りを行っていた風習の名残りなど諸説がある。

 現在の出棺時に鳴らされる霊柩車のクラクション自体に特に大きな意味はない。

 一般的には"別れの合図"や"弔意を表すための弔砲がわり"や"未練を断ち切るための音"などとして認識されているようだ。 

 紫雲閣では昨今の住宅事情や社会的背景を考慮し、出棺時に霊柩車のクラクションを鳴らすのではなく、禮の想いを込めた鐘の音による出棺を提案する。

 使用する鐘は、宗教に捉われない鰐口(わにぐち)を使うことにした。また、紫雲閣独自のオリジナル出棺作法として、3点鐘(3回たたく)による出棺とする。この3回というのは「感謝」「祈り」「癒し」の意味が込められている。

 鰐口は金属製梵音具の一種で、鋳銅や鋳鉄製のものが多い。鐘鼓を二つ合わせた形状で、鈴を扁平にしたような形をしている。上部に上から吊るすための耳状の取手が二つあり、下側半分の縁に沿って細い開口部がある。仏堂や神社の社殿などで使われており、金口、金鼓とも呼ばれる事もある。

 古代の日本では、神社にも寺院にも鰐口が吊るされた。その後、時代が下って、神社は鈴、寺院は釣り鐘というふうに分かれていったようだ。

 鰐口は神仏共生のシンボル、さらには儒教の最重要思想である「禮」の文字が刻まれた「禮鐘」は神仏儒共生のシンボルとなる。神道・仏教・儒教は日本人の「こころ」の3本柱である。3回鳴る鐘の音には、「神」「仏」「儒」の意味もある。

 この鐘が鳴るたびに、故人の魂が安らかに旅立たれ、愛する人を亡くした方々の深い悲しみが癒され、さらには日本人の心が平安になる。そのことを願ってやまない。