第24回
一条真也
『ほかならぬ人へ』 白石一文著(祥伝社)

 

 著書は、わたしの愛読する作家です。最初に読んだのは『僕のなかの壊れていない部分』でした。読書家として知られるゼンリンプリンテックスの大迫益男会長から薦められたのです。その理由は、主人公がわたしによく似ているからというものでした。読んでみると一発でハマり、それ以来、彼の小説はすべて読んできました。
 このたび、著者はついに第142回直木賞を受賞しました。本書は、その受賞作です。「ほかならぬ人へ」と「かけがえのない人へ」という二編が収録されています。いずれも、自分の愛するべき真の相手を求める物語で、「恋愛の本質」を克明に描いています。
 現在、「婚活」が時代のキーワードになり、いかにして理想の相手とめぐりあうかが大きなテーマとなっています。わたしも、近く「婚活」についてのガイドブックを出す予定ですが、多くの方々が良き伴侶を得られることを願っています。
 かつてプラトンは、元来一個の球体であった男女が、離れて半球体になりつつも、元のもう半分を求めて結婚するものだという「人間球体説」を唱えました。
 また、結婚には他人と結びつく途方もなく巨大な力が働きますが、ゲーテはそれを「親和力」と呼びました。さらに、「心から深く人を愛しているときに、人は他人を憎むことができない」という言葉を残しています。
 わたしは、結婚とは不完全な魂同士が完全になるべく結びつく「結魂」であり、「結婚は最高の平和である」と信じています。では、それらを実現する相手をいかにして見つけるか。
 「ほかならぬ人へ」には、次のような主人公の青年の言葉が出てきます。
「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
「人間の人生は、死ぬ前最後の一日でもいいから、そういうベストを見つけられたら成功なんだよ」
 最後に、本書はいわゆる「不倫」について新たな光を当てています。渡辺淳一の『失楽園』や『愛の流刑地』などとは違った意味で、不倫小説の金字塔といえるかもしれません。