第28回
一条真也
『負けてたまるか!若者のための仕事論』

 丹羽宇一郎著(朝日新書)

 伊藤忠商事の相談役である丹羽宇一郎氏が若いビジネスマン、ビジネスウーマンに向けて書いた本です。
 著者は、まず、人は仕事で磨かれると訴え、若者に「まずはアリのように、泥にまみれて働け」と喝破します。
 それから、「君はアリになれるか。トンボになれるか。そして、人間になれるか」という言葉を紹介します。
 会社に入って最初の時期、20代〜30代までは、「アリ」のように地を這っていくことが大事。がむしゃらに進み、失敗を重ねていく中で迎える30代前半、そこから40代前半までは「トンボ」のように広い視野で世間を見て勉強する。会社のリーダーに近づく40代後半〜50代にかけては、血の通う、温かい心を持った「人間」をめざす。
 非常にわかりやすい比喩ですが、最後は「人間」に行き着くわけです。
 また、人は読書でも磨かれます。著者によれば、人間には本来「動物の血」が流れている。人類が誕生して以来、「動物の血」は200万年も脈々と息づいている。一方、神々の血、すなわち「理性の血」はたかが4000年から5000年にすぎない。どちらが勝つかといえば、間違いなく「動物の血」です。著者は、読書によって「動物の血」を抑制することができると主張し、こう述べます。 「最近では、親殺し子殺し、あるいは通り魔的殺傷事件が後を絶ちません。不満や愚痴がたまると、それを抑制できずにすぐにキレてしまう。自分で自分の感情をコントロールできなくなっているのです。これは、読書をしていないことも一因ではないかと私は考えています。」
 そして、最後に人は人で磨かれます。著者は「教養というのは相手の立場に立って物事を考える力があること」として、次のように述べます。
「どうしたら教養を身につけることができるか。もちろん読書も大事です。そしてたくさんの人と接し、人間社会で揉まれることです。自分の思い通りにならないことも多々あるでしょう。そんなとき、なぜなんだろうと立ち止まってみる。自分に非はないかと謙虚に帰みる。」
 こうした経験を積んでいくことで、相手の立場に立って物事を考えるということがわかり、「教養」がつくのです。
 このように、人は、仕事で磨かれ、読書で磨かれ、人で磨かれるのです。
 新入社員を中心とした若者向けに書かれた本ですが、ビジネスに関わるすべての人々に大事なことを教えてくれます。わたし自身、本書から多くを学びました。