第36回
一条真也
『あなたにあえてよかった』大浦静子著(北國新聞社)

 

 著者は、愛する娘である郁代さんをガンで亡くしました。享年34歳の若さでした。郁代さんが生まれたときから亡くなるまでの「いのち」の記録が本書です。
 郁代さんは前向きな性格で、周囲への気配りを忘れない女性でした。旅行会社の添乗員として世界中を飛び回っていました。特に、オーストラリアの海を深く愛していました。
 彼女は、余命半年を宣告されたとき、お別れの旅をはじめました。病身にもかかわらず、国内で30人、海外で30人のお友達に会い続けたそうです。
 そのことが2007年の日本テレビ「24時間テレビ」で取り上げられました。20分ほどの再現ドラマがオープニングで放映されたのです。そのとき、日本武道館で秋川雅史さんが「千の風になって」を歌い上げました。
 本書の冒頭には、郁代さんが御両親に当てたメッセージが掲載されています。これを読んで、わたしは涙しました。生前の郁代さんの人柄がよくわかります。
 わたしは、たとえ34年の生涯だったとしても、心から家族と愛し合うことができた郁代さんと御両親は幸せだったのではないかと思います。

「おとうさん おかあさんへ」

わがままな娘でごめんね。
いつもつっけんどんでごめんね。
口が悪くてごめんね。
心配ばかりかけてごめんね。
親孝行できなくてごめんね。
孫の顔、見せられなくてごめんね。
おとうさん、おかあさんより先に死んじゃってごめんね。
34年間という、少し短めの人生だったけど、
おとうさん おかあさんのおかげで、 楽しく、充実した、しあわせな人生でした。
子どものころから、のびのび自由に育ててくれて有り難う。
わたしを信頼し、やりたいことをやらせてくれて有り難う。
いつも心配してくれて有り難う。
わたしのために、泣いてくれて有り難う。
産んでくれて有り難う。
おとうさん、おかあさんの子どもとして産まれてこられて、
わたしはとってもしあわせだったよ。
本当に有り難う。
                        郁 代
(亡くなる1カ月ほど前に書いたと思われる遺書)