第137回
一条真也
『さよならムーンサルトプレス』福留祟広著(イースト・プレス)
 わたしは大のプロレス・ファンなのですが、特に「プロレスリング・マスター」の異名を持つ武藤敬司は同年代ということもあり、好きなレスラーの1人です。本書には「武藤敬司35年の全記録」というサブタイトルがついています。著者は1968年、愛知県生まれ。國學院大学文学部哲学科卒。92年、報知新聞社入社。現在、メディア局コンテンツ編集部所属。プロレス、格闘技、大相撲、ボクシング、サッカーなどの取材を担当。
 アントニオ猪木が率いる新日本プロレスは80年代に一大ブームを巻き起こしましたが、その後、引退したタイガーマスクにはじまって、長州力ら維新軍団、前田日明らUWF勢の離脱といった「大量選手離脱」の荒波に襲われました。しかし、それによって新時代のスター「闘魂三銃士」が誕生。本書の主役である武藤敬司もその1人です。
 武藤は、平成のプロレス界を牽引し、つねにファンを熱狂させてきましたが、必殺技は「ムーンサルト・プレス」でした。リング四方のコーナーポストによじ登り、背中を向けた状態からジャンプし、バック転をしながらリング上に横たわっている対戦相手めがけてボディ・プレスを仕掛ける大技です。
 この技はとても華麗ですが、ヒザを痛めることで知られています。長年のヒザの酷使から、武藤はムーンサルト・プレスの封印を余儀なくされます。
 そんな武藤の35年の軌跡を追ったのが本書です。「スポーツ報知」のWEB版で話題を呼んだ同名連載を大幅加筆して書籍化。武藤本人をはじめ、坂口征二、前田日明、佐山サトル、蝶野正洋、獣神サンダーライガー、船木誠勝など、約30名を総力取材しました。序章「最後のムーンサルトプレス」で、著者は以下のように述べています。
「1954年2月19日に、蔵前国技館で力道山が木村政彦と組んでシャープ兄弟と対戦し、日本初の本格的なプロレスがスタート、ジャイアント馬場、アントニオ猪木が昭和のプロレスを発展させた。(中略)平成のプロレスは、武藤敬司の時代だったと表現しても過言ではないだろう。そこには常に『ムーンサルトプレス』があった」
 昨年3月14日、後楽園ホールでの8人タッグマッチで武藤は、プロレス人生最後のムーンサルト・プレスを放ち、満員の会場は大歓声に包まれました。手術後の武藤の復帰戦は、今年6月26日の後楽園ホール。長州力の引退試合で1年3カ月ぶりにリングに帰ってきましたが、ムーンサルト・プレスなしでも見事なパフォーマンスを見せてくれました。
 本書はさまざまな病気や怪我に悩む方に、勇気と希望を与えてくれる一冊です。